其ノ四

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「──ところで君も、キヨさんと同じように座敷わらしを見た事があるのかい?」  詩宮はだいぶ温くなったお茶を啜りながら、晶に問いかけた。  隣では有馬が口を押さえつつ、ヒィヒィと悶えている。よほど食べさせられたスナック菓子が(から)かったのだろう。 「アタシィ? いやあ、ないない。もう十何年もここに住んでるけど、そんなのを見た事は一度もないよ」  あっけらかんとした態度で手を横に振る晶を見て、詩宮はふとした疑問を覚えた。 「晶くんは、座敷わらしの存在を信じていないみたいだな」 「子供の時だったら信じてたかもだけど、流石に十九にもなったらねー……」  晶はそう言って苦笑いを浮かべた。  怪異を信じていない人間ならば、このような反応をするのは至極当然だろう。 「だけどキヨさんは見たと言っているし、この家では座敷わらしが現れて以来、幸福が続いているんだろう?」 「そうそれ! それがアタシにも不思議でさぁ……」  腕を組んだ晶が、不思議そうに肩を竦めた。 「そんなに不思議な幸福が起こったのか」 「ううん、そっちじゃなくて、アタシが不思議に思ってるのは、キヨばあちゃんが座敷わらしなんて物を信じてる事の方だよ。それに幸福なんて、失くしたと思っていた財布が見つかったとか、映りの悪いテレビの調子が良くなったとか、そんな些細な事ばっかだから、大して驚くもんでもなかったし」  確かに、キヨから送られてきた葉書には、些細な事ばかりとあったが……。  今はそれはどうでもいい。詩宮の脳裏に引っかかったのは、別の問題なのだ。 「ふむ……つまりキヨさんは元々、座敷わらしを信じるような人ではなかったと」 「うん。だってばあちゃん、すごく現実主義な人だったんだもん。神様なんか居やしないって、常日頃から言ってたしね」 「現実主義?」  予想だにしていなかった言葉に、詩宮は眉を顰めて聞き返す。 「うん」  晶はコクリと頷いて立ち上がると、居間にあるタンスの引き出しを開け、そこから何かを取り出してちゃぶ台の上に置いた。  それは、古ぼけた一冊のアルバムだった。 「まあ、これを見たらわかるよ」    再び腰を下ろした晶が、慣れた手つきでアルバムを捲っていく。  そしてあるページまでいった所で手を止め、それを詩宮と有馬の前に差し出した。 「これ、若い頃のキヨばあちゃん」  そこに載っていたのは色の褪せた白黒写真で、かなり古い物であろう事が見て取れる。  被写体は、着物を着て椅子に座っている黒髪の女性だ。  年齢は二十歳前後だろうか、趣のある微笑みを浮かべていて、実に美しい。 「わあ……まるで女優みたいだ……」  ようやく激辛の苦痛から逃れきった有馬が、写真を眺めながら呆然と呟くと、 「まるでじゃなくて、本当に女優だったんだよ」  晶は間髪を入れずに、そう返した。  その表情には、どこか寂しげな微笑が携えられている。
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