―冬は静かに願う―

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 一度だけ、あなたに触れたことがあります。その日はきっと人々の記憶に残る日。それは真夏に大雪が降った日。私はおっちょこちょいで、よく転びます。その時もなにもないところだったけれど、少しだけ積もった雪に滑ってしまった。そして、ちょうど、その先にあなたがいた。顔は見ていなかったけど、ぶつかってしまったのはあなただと、すぐにわかりました。あなたの背中に私の顔がぶつかって、私の手が触れて。あなたの温度が、ぬくもりが、香りが、私の体に伝わってきた。時が止まったかと思いました。私の温度は急上昇。 でも、恥ずかしくて、その場からすぐに逃げ出しまって、謝れずにいたことを私はずっと後悔しています。でも後ろからあなたの笑い声が聞こえた。笑い声に交じって「かわいいね」と。私の幻聴かもしれないですね。  次の日はまた、あなたの笑顔のような晴れの日がきて、思い出の雪は溶けてしまいました。今思えば、私はあなたに近づくための方法として、自分であのような方法を選んでしまったのでしょうか。普通に近づくことはできないからといって異常気象を起こすなんて、私はいつも周りに迷惑をかけてしまう。
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