番外編 ヨロシクね。ボクの名前は……

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家に入ると、気不味そうな顔の祖父が、ソファーでお茶を飲んでいた。 「お、おお。光優、お帰り。学校は慣れたか?」 「おじいちゃん……犬の名前、言い出せないからって、あんな態度じゃ勘違いするよ。」 見ると、紅茶に入れている砂糖は既に溶けきらなくなっている。 手元もガタガタして、相当動揺しているらしい。 「いや!!本当にすまん!!お前が居なくて、そしたら仔犬が光優に見えてきて、おっとりしてて可愛くて……つい、出来心だったんだ!!!」 「もう……僕、おじいちゃんに怪我以外に何か大変な事が有ったのか、心配になったよ?本当に勘弁してよ~。」 光優が眉を潜めて、困った様な顔で祖父を見ると、光輝はムンクの叫びのようなポーズで悲愴な顔で謝ってきた。 曰く、孫の名前を犬に付けてしまって気まずいし、犬種は勘違いして大きいし、急に世話を頼む為に帰ってきてくれとか、更に言い出せなくてあんな態度を取ってしまった。 決して、光優を心配させたかった訳じゃないんだ。じいちゃんを嫌わないでくれー!!! おっとりしたジジババっ子な光優はというと、祖父のそういう、どこか残念なところも知っていたので、あまり怒ってはいなかった。 ただし、やっぱり他も怪我したとか、ぶつけた相手が逃げて捕まってないとか、ワンコが過剰防衛だって言われたとか……色んな事を気にしていたから、一応しっかりと釘だけは刺しておいた。 「ほら、光優に思わせ振りな態度を取ってしまったから(笑)私は呆れられるって言ったけど、嫌われるなんて言ってなかったでしょうに。」 「あっ!!そう言えば!!俺の早とちりか!?」 碧が面白そうにお茶のお代わりを注ぎながら、光輝に向かって肩を竦めた。 碧さん、日々、旦那の残念観察日記を付けている模様。 エピソードは多岐に渡るが、大抵は真面目に全力投球過ぎた、子供染みたおバカエピソードである。 「…………はぁ、御世話って散歩やエサの事で良いの?その足じゃ散歩出来ないし、おばあちゃんも小柄だから大変だよね?父さん達は、仕事柄忙しいだろうし。」 「そうですね。実は週末だけでなく、しばらく……かなり長い間、みゆをそちらのアパートで預かってほしいのです。」 「光優には悪いけど、引ったくりが妙に手慣れてて、仲間が捕まってないのが居るのよ。ほら、みゆは目立つし、逆恨みで襲われたら警察は人間優先でしょ?」 犬に何かされたら、それこそ光輝は足を引き摺ってでも、ソイツを血祭りに上げに行きかねない。 今も膝に顎を乗せたみゆをデレデレとモフって、孫同然に可愛がっているのだ。 「え?……まさか、僕のアパートにワンコのみゆちゃんが来るってこと?うーん、ちょっと狭くなるけど、大丈夫かなぁ。」 仔猫のマロン一匹なら余裕だが、流石に大型犬だとかなり部屋が狭くなってしまう。 何せ、犬のみゆも人間の光優も標準より大柄なのだ。 「その事ですが、私もアパートに送っていって、そのまま部屋の引っ越しを大家に相談しようと思っています。近くでもっと大きな部屋に、です。」 「え?僕も引っ越しを!?」 友人の隼人だけでなく、自分も引っ越しをする事になるとは思ってなかった光優は、目を丸くして驚いた声をあげた。 狭いスペースでどうやって犬のみゆの寝床を作るか考えてはいたが、引っ越しをする程とは思わなかったのだ。 「"僕も"って……ああ、吉行君ね。部屋は見つかったのかしらねー?」 「向こうのお母さんが仔猫に一目惚れだから、実家に引き取られたら引っ越しはないけど……どうだろう?」 隼人の背中に上機嫌で登っていた仔猫が、里親として見に来た人には部屋の隙間から威嚇しまくっていたのだ。 「あ、そーだわ!!アタシ、良いこと思い付いちゃったわぁ♪」 急に母親の美彩緒がポンと手を叩いて、隼人の実家に電話しなきゃと自分の部屋に駆け込んでいった。 「光優~。吉行君のお家って何番だっけ!?」 「えっと、急にどうしたの!?」 訳のわからない光優は、スマホ片手に急かす母親に困惑気味だ。 「だ~か~ら~、アンタの今の部屋に吉行君が引っ越して、アンタは近くのデカイ部屋に移ればOKでしょ!!」 そんなに上手く行くものではないと思う、という言葉は母親のニコニコ顔を前にするとどうしても出てこなかった。 確かに、空き部屋になるのだから、そこに入居出来れば、引っ越しの悩みはスムーズに解決ではある。 「ちょっと僕のスマホから隼人君に連絡してからね!?もし、決まってたり、仔猫が実家に行くかもしれないっていうのも有るからね?」 アタシが話しても良いのにぃ~、と口を尖らせる母親を制して、光優は急いで隼人に連絡した。
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