番外編 ヨロシクね。ボクの名前は……

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「もしもし、なんだよ光優?じいちゃんに何かあったん……」 「あ、隼人君!?仔猫の行き先決まった!?新しい部屋って決まった!?僕も引っ越しなんだって!!どうしよう、ビックリだよ!!」 いつもはおっとりとした光優の早口に、電話の向こうの隼人も釣られて、えええ!?何だ何だ、どうしてそうなった!?と今一頭が追い付かないようだ。 「……えっと、光優のじいちゃんが引ったくりされた時に、犯人を捕まえたのがそのワンコだと。」 「うん、それで犯人は捕まえたけど、その知り合いの人とかが逆恨みでみゆを…あ、ウチの仔犬の名前ね……苛めたりするかもって。僕がしばらくアパートに連れていくけど、大型犬だから、狭すぎるんで大きい部屋に引っ越しなんだって。」 事情を簡単に隼人に説明して、仔猫の行き先は決まったかとか、隼人の引っ越し先はどうなったかも聞いてみた。 「それがなぁ……人が来るとあっという間に物陰に隠れて、すっかり部屋の隠れ場所を把握したらしい。お袋もちび猫可愛いって他所にやる気ないしな。昨日の今日じゃ、引っ越し先は全然だぜ。」 ネズミのオモチャをぶん回して猫キックをしている仔猫を見ながら、隼人は乾いた笑いを浮かべた。 (こんなに可愛いのに、隠れてたらアピール出来ないじゃんな。回数重ねる度に潜り込むスピード早くなってるぜ。間に合わなければ、俺に登って服に隠れるし……お尻が逆さまに突き刺さっててメチャクチャ笑われたぜ。………可愛いな。) 『ぁんだよ、このネズミはやらねえぞ!!……や、やらねぇかんな!!……見せるくらいは良いけどな!!』フンフン!! サビ猫はしっかりとネズミのオモチャを抱き抱えて、チラチラと電話中の隼人を見ながら転がり続けていた。 今朝のマフラーはベッドに乗ったまま、触るとふしゃーと言いながら飛んできて怒るので置きっぱなしだ。 「ああ……そうだよね。部屋が空いてても、キャンパスから三時間とかだと無理だしね。それじゃ、ウチの母さんが隼人君の親御さんに連絡しても良いのかな?」 「ほゎ!?どういう事だよ?」 「それが……僕が居た部屋に隼人君が入居したらって言い出して……電話しても良いかな?」 急な話題転換に戸惑う友人の声に、突拍子過ぎる話でどこか申し訳ない光優。 電話を挟んで、何だろう?母親って強いの?……と思いながら二人は一応の近況を報告しあった。 「光優~。輝美さんが送っていくついでに、大家さんとも相談出来るみたいだし、隼人君の親御さんもOKだってさ!!はぁ~、これで一安心。」 スマホ片手にクルクル回って、喜びを表現する美彩緒に、光優は不思議そうに首を傾げた。 「どうしてそんなに嬉しそうなの、母さん?」 「だってさ~、隼人君が飼う仔猫も、中々根性据わった顔して可愛いじゃん?可愛い大集合よぉー♪」 オモチャを咥えて逃げ回る仔猫の後ろ姿を、スマホで見た美彩緒は、他にもこんな写真が増えるはずと萌えているようだった。 (こういうの見ると、段々隼人君には慣れてきてくれてるって分かって嬉しいよね。) 『お母さん、嬉しそう!!お兄ちゃん、お出掛けしてたの帰ってきたからかな?ねぇねぇ、お兄ちゃん散歩行こう♪僕が案内してあげるよ!!』ハフハフ… 光輝に思う存分モフられて満足したみゆは、今度は久々のお兄ちゃんとの散歩をしようと張り切った。 犬のみゆには、逆恨みで云々なんて判らないので、散歩紐を咥えて光優の周りをスキップしながら尻尾を振っている。 マロンも釣られてそわそわとし始めて、ソファーの上でグルグル回っていた。 「おや、光優?散歩は危ないよ?庭でボール遊びくらいなら良いけど………」 「あ……うん、でもちょっと家の周りを廻るだけだし、散歩は仔犬の一番の楽しみなんだから、ずっと行ってないと流石に可哀想だよ。」 靴を履いて犬の散歩紐を持つ光優に祖母の碧が、さっきの話聞いてたかい?と呆れたように声をかけた。 本当なら一時間かけてするものを、家の周りを廻るだけの簡単なものにせざるを得ない。 それだけでも可哀想だし、自分は顔が知られてないからまだましだろうと光優はジャケットを着て、みゆの散歩紐を持ちマロンを抱くと玄関を出発した。 『あのね、おじーちゃんと土手の所によく行くんだ。夏はバッタがいっぱい居るんだ。』チャッチャッ… 「ごめんね?家の周りを廻るだけじゃ、あんまり気分転換にならないよねぇ。あ、お隣の紅葉綺麗だね~。」ノホホン… グルグル……グルグル……… 家の周りを三周くらいした時、突如警戒心丸出しの声を掛けられた。 「おい、その家に何の用だ?」 「え?」 見ると仏頂面の高校生が、鞄と何か細長い袋を持って、少し向こうに立っていた。 「ああ、此処、僕の家だけど……」 「そこの家は、動物病院のじいさん達の家だ。家族構成も知っている。その犬、此処の犬なのになぜ周りを廻る。」 イライラした様子でズカズカ近付いてきた高校生に、犬のみゆは呑気に尻尾を振っている。 (犯人の仲間じゃなさそう。え~と、誰だろう。何処かで見たような……) 「……おい?」 「あ、ごめんね?ちょっとトラブルがあって、遠くまで散歩すると危ないし、家の周りを廻るだけの散歩してたんだ。」 よく日に焼けた高校生も、仔犬の様子がのんびりして居るので、此処の親戚か何かか?と思い始めたようだ。 「あ………もしかして、伽藍ちゃん?此方に帰ってたんだねぇ。久し振り!!」 「はっ!?お前は………?」 元々険しかった様子の高校生だが、訝しげな顔が益々しかめられた。 「僕、池田光優だよ。たまに手紙を送ってたでしょう?わぁ、大きくなったね~。」 「は……はぁあああっっ!!?光優って、お前、男だったのか!!?」 池田光優、幼少期は一見超絶美少女であった。 変なのに纏わり付かれ過ぎて、写真が好きじゃなくなって年に家族が数枚撮るだけだ。 それに、引っ越した年下の幼なじみがスマホ関係も持ってなかったため、最近は文章だけのやり取りだった。 電話はお互いに時間が合わなくて、その内に気恥ずかしくなってしまった。 引っ越ししてからも、年に数回、季節の挨拶していたが、また此方に帰ってきたというのはきいていた。 「この前、思いきって仔猫と一緒の写真送ったのに‥…覚えて無い?」 主に首から上で、仔猫の体に遮られて男性的特徴が目立たなかった模様。 「写ってたのは、その懐に入ってる仔猫と半分隠れた顔だったろう!?あんな可愛くて綺麗なのが、男だと思うか!!」 「え、可愛……僕、身長186センチ有るんだけど……。」 確かに、写真はちょっとゴツいなとは思ってたが、クォーターの光優ならそんなものかと気にしてなかった。 小さい頃からお嫁さんにすると心に決めていた幼なじみが、自分よりもデカイ男だったと十数年目にして発覚した。 道理で、家族が面白そうにしているわけだ。 「そっか。相沢さん、転勤族だったけどやっと地元に帰ってきたんだねぇ。僕の進学と重なって、伽藍ちゃんと会えてなかったもんね。」 ニコニコと笑う幼なじみは、相変わらずおっとりしてて、可愛くて綺麗なので、怒るに怒れない。 ちゃんと、最近の写真も送ってくれていたのだし………勘違いしてたのは自分だ。 「ああ、悪かった。今は電車通学だから時間がかかる。部活も有るので、つい足が遠退いた。」 ふと、光優の胸元から覗く仔猫と目があった。 『む、光優の幼なじみか。よくわからんが、光優が嬉しそうだ。お前、何者だ。』キリッ 「何だ……。あの仔猫か?お前、どこに入ってるんだ?」フッ… (何だろう?この子達、似てるよね。ふふふ…人と仔猫なのに、兄弟みたいだ。可愛いなぁ……。) 猫とガンつけ合いになっているのを、微笑ましく見ていると、家の中から母親の呼ぶ声が聞こえてきた。 「あ、そろそろご飯の支度手伝わなきゃ。伽藍ちゃん、またね。明日の昼には向こうに行くけど、もし時間があったら一緒に散歩しようね?」 「あ、ああ。(明日の午前中の部活は止めだな。先ずは、家族全員に黙っていたことを問い詰めねば!!)」 結局、伽藍が家族に問い詰めたところ、面白そうなので自分で気づくまでどれくらい掛かるか、賭けていたようだ。 「光優ちゃん、どうだった?お母さんも会ってないから、格好良くなってた?遠目でしか見てないのよねぇ。」 「…………相変わらず、綺麗だった。連れてた仔犬と本当にそっくりで可愛かった。これで、満足か?」 ニヤニヤと(男の子でさぞやビックリして、とうとうお嫁さん発言撤回か!!)と、ワクワクと人の悪い質問をした家族は、ブレない言葉に逆に動揺した。 「性別を勝手に勘違いしたのは俺だ。それで、意見を変えたり、見方を変えるのは光優に失礼だ。実際に、綺麗だし……嫁云々は俺が思っている事で、撤回する時は俺が決める。伝える気はないから、お袋達も余計な事は吹き込むな。」 溜め息を吐いて、ジロッと無愛想に家族を一瞥すると、相沢家のクールな一人息子は自室に消えていった。 「………ええと。ここまでブレないって、予想外なんだけど……。」 ポカンとお玉を持ったまま、口が半開きな母親。 「中性的な美人だったのかねぇ?」 ポツリと溢した言葉に、爺婆が訂正を入れた。 近所のよしみで世間話くらいはする仲ではあった。 「いやいや、碧さんに聞いたら、そろそろおじいさんに背が追い付きそうって笑ってたわ。」 転勤族な引っ越しを期に幼なじみが居なくなった相沢家では、始終光優を見掛ける訳でもなく、間近で挨拶するのも中学までだった。 「確かに、高校時代の光優君は急に伸びて、お父さんに似てきてたな。」 光優がすっかり男らしい体型になったのを知っていた家族は、いつ気付くかワクワク……じゃない、ハラハラしながら観察……見守っていたのだが。 「事実が判っても、あそこまで動じないとは………古流剣術道場に通わせたからか?」
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