番外編 ヨロシクね。ボクの名前は……

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「光優!!アンタ、怪我はない!?バカな子だよ、変質者の手を離さなかったなんて!!凶器を叩き落とせたから良かったものの!!刺さったら大怪我だよ!!」 警察署で事情を聞かれるので待合室で待っていると、光優は美彩緒にぎゅうぎゅうと抱き締められた。 普段は、もう成人男性並みの息子に子供扱いはしないのだが、このときばかりは小さい子に対するように、しっかりとお説教されていた。 「そうだぞ、光優。気付いててどうして逃げないんだ!!」 「………ごめんなさい。ウチの子や伽藍ちゃんが刺されたらとか、公園に来た人に目を付けたらって思っちゃって。人が居ないところに引き摺って行かないとって、そればっかり。ごめんなさい。」ショボン…… 仔犬(大きめ中型犬サイズ)のリードを持った伽藍からも、散々気が気じゃなかったと怒られていたのだ。 当の光優はマロンを抱っこして、大人しく怒られていた。 「お前な……俺達だってお前が凶器で大怪我したら、ショックなんだぞ!?場合によったら怪我だけですまない。」 「ご、ごめんなさい。だって……今この人の手を離したら、犯人の両手が自由になるって……怖くて。」 『でも、俺達が安全でも、お前だけが危ないのはダメなんだぞ。飼い主が居ないと寂しがるんだぞ、この犬が。』ウニャウニャ!! 『へ?ええと、そうそう!!お兄ちゃんは僕が守るからね!!今度はもっと早くドーンってするね!!』フンフン!! ペット達の、だからそろそろ許してやれよ、という視線に気付いたのか知らないが、警官が来る前には何とかお説教は終わっていた。 「ふぅ……しかし、本当にデカイ犬ってだけで襲う奴等が居るとはねぇ。チョロッと聞いたんだけど、ウチだけじゃなくラブラドール連れてても、仲間らしいのが絡んで来てたらしいよ?」 今回はたまたま当たりだっただけで、やはりいつもの散歩コースの河川敷近くでは、柄の悪い奴等が彷徨いていたらしい。 早朝に、反対側の近くの公園で遭遇したのは、運が悪かったのだろう。 「芋づる式に仲間が捕まると良いけど。まさかこんな朝早くに、ジョギングしてる人に混じってやって来るとは。顔が知られてないから誤魔化せるって話じゃなかったんだね。」 デカイ犬を連れている人なら無差別で絡んで、暴力奮って金を脅しとる。 警官が来た頃には、犯人は逃げて、ぼこぼこの犬と飼い主が残されていた。 「ワンちゃんが重傷でも、飼い主はそうでもないのよ。転ばされたりして起き上がる隙に、財布盗られて、犬を……酷い話よ。ウチの事件が有って間もないから、お互いに詳しい話が行き渡ってなかったのよ。」 「…………もう少し、腕を握り潰せば良かったかな?」ボソッ 動物と家族と愛する光優は、無関係な犬好きな人(同士)が難癖付けられて怖い思いしていた事と犬をボコボコにしていた事で地雷を踏まれたらしい。 「……ウッセェヨ!!犬くらいで大袈裟だろう!!俺は狂暴な獣に怪我させられたんだぞ!!アッチを訴えてやるぜ!!!あのババアも、高校生のガキも覚えてやがれ!!慰謝料と治療費踏んだくってやる!!」ドヤドヤ…… 廊下を大声で騒ぎながら犯人が連れていかれているようだ。 いい加減にしないか!!という警官の怒る声も聞こえている。 …………………ブチンッ!! 「……………ちょっと?訴えるって何?」バタン 「ああ!!テメエのせいで……グホッ!!」 警官を無視して文句を言おうとしていた犯人の体が、目の前から消えた。 『お兄ちゃんに近付くな!!え~い、ドーン!!』ドカッ 「上等じゃないか!!今後、人様の前で、ヘラヘラしたその顔見せられないようにしないとね!!!」ブンッ!! 「グハッ!?……チリッ(←よろけたお陰でキックが当たり損ねた)……ヒィッ!!(今、転ばなかったら、モロに顎に入ってたぜ!?)」ガクブル…… ワンワンと吠える犬と、今度はパイプ椅子を持ち上げた光優を見て、腰を抜かす襲撃犯人。 「わぁあ!!ちょっとちょっと!!光優君、落ち着いて!!私達がきっちりみっちり社会的にもヤっとくから、パイプ椅子は止めて!!ああっ!!素手だから良いって事じゃないって!!足、長過ぎない!?この距離で蹴りが届くってマジで!?」 小さい頃から顔見知りのお巡りさんが、ブチキレた光優を止めた頃には、絡んでた不良は廊下の向こうで丸くなって震えていた。 ちなみに、最初の犬の体当たりが当たってからは、クリティカルはもらってない。 だが、顔ギリギリを掠める光優の手足やパイプ椅子にすっかりビビった模様。 普段はおっとりと父親の輝美似だが、地雷を踏まれて堪忍袋の緒が切れると美彩緒譲りのヤンキーキックが炸裂する。 「ここまでは、襲われた直後で身内の危険を感じてパニックになったって事にするから、大目に見るけど。これ以上したら光優君が罪に問われちゃうよ。」 「ううう……」 中年に差し掛かったお巡りさんが、光優の肩をポンポンとして、落ち着くように言うと、渋々振り上げた足を下ろした。 「いやはや、第二会議室に通せって言っておいたのに……被害者と間近に犯人を接触させるとは。スミマセンな、奥さん。」 「いえいえ!!こちらこそ、飛び出したのを止められなくってスミマセン。犯人が反省もせずに付き纏って来そうと思ったら、この子、それだけでパニックになっちゃって。」 過去の光優のストーカー事件を知っているだけに、気を付けていた筈が手違いで、犯人がノックアウトである。 「まあ、コイツの言動が言動ですからな。恐怖から反射的に、ということにしときますよ。ウチの署では、光優君がパニクった事情が解ってますから、精々厳重注意です。」 やれやれ…と汗を拭うお巡りさんは、仔猫と仔犬を渡されて、モフモフしながら半泣きで落ち着こうとしている光優を見て心配そうにしていた。 『光優!!大丈夫か!?俺を抱っこして和め!!今なら、みゆが付いてくるぞ!!』ミャーン 『お兄ちゃーん、泣かないで!!僕が付いてるよ!!帰ったら、僕の骨ガムあげるから、泣かないで!!』クーンクーン 「ううう……マロンちゃん、みゆ。もうちょっと抱っこさせてて。」グスッ……
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