24人が本棚に入れています
本棚に追加
仔猫の威嚇は般若顔でも可愛いで済むが、針のような爪のパンチは、結構な威力だった。
実際、洗った時と診察の時に、隼人の腕にはシッカリとミミズ腫れが刻まれている。
「そうかぁ?俺は、初対面なんだからこんなもんじゃないかと思うんだが?結構可愛い部類に入るんじゃないか?警戒心強い所も、むすっとした口も、ふわふわの尻尾も。」
すっかり、うちの子可愛い、最高、天使か!!という親バカ状態の隼人だった。
引っ掛かれても、威嚇されても、何だかんだで自分に引っ付いて隠れたつもりの仔猫にメロメロだ。
「僕もクールなイケメンさんになりそうだし、可愛いと思うけど。うちの子も仔猫の時に周りの人から、物静すぎてじゃれないから全然可愛くないって言われたもん。多分、僕達の可愛いと世間の可愛いは範囲が違うんだよ。」
光優も、クールな自分の飼い猫のツンデレに重ねて、仔猫にフシャーと怒られてもまったく気にせず、マイペースに構えてる。
お腹すいたのかな?
あ、恥ずかしがってるの?
あんまり構うと余計緊張するよね?
ウンウン、可愛いな~。
精々、こんなのほほんとした思考で、にこにこと仔猫を愛でているのだ。
今は先に猫を飼い始めた、猫の飼い主(と書いて下僕と読むらしい)の先輩の光優に急遽仔猫用のグッズのお古を貸してもらって準備中なのだ。
……が、何故か部屋の隅っこの隙間や隼人の上着、猫用の膝掛けサイズの毛布に潜り込んでしまっている。
チビ猫用の猫ちぐら(猫のかまくら型の座布団)は、仕方無いので隅っこの隙間に細長く変形して挟まっている状態だった。
そもそも大家さんの考えだと、ケージの中でずっと飼う小動物なら部屋を傷だらけにしないだろうし、汚さないだろうという事らしかった。
逆に猫なんて小さくてもバリバリ爪研ぎするイメージから、絶対に飼うなんてダメと言われてしまう。
『むぅ、俺を無視すんな。もう飽きた、構えよ!!』テシッテシッ
「おっ?パンチか?うりゃっうりゃっ、可愛いなぁ!!」
じっと隠れているのに飽きたのか、鼻先と手だけ出して、仰向けで猫パンチしてくるサビ猫にしばし話が中断する。
威嚇する割りには、放っておくと寂しくなるのか、それとも退屈するのか、遊びを仕掛けてくるので、何度も中断されていた。
だが、この部屋で話し込む二人共が、仔猫にメロメロなので、何の問題も無かった。
可愛いは正義とは、まさにこの状態の事だった。
「パソコンで作ったチラシを、明日、事務に言って貼らせてもらうから、続きはそれからだねぇ。猫ちゃんのオヤツにしようか。」
今度は隼人の背中からよじ登って、膝に乗るという周り道をわざとしている。
光優は、アスレチック代わりにされている友人を苦笑しつつ眺めて、自分達と猫達のオヤツを用意するべく席を立った。
『む………オヤツか。あのチビのオヤツは、ちゃんとふやかすのだろうな。』テテテテ……
台所に寝ていた光優の猫、マロンが足音を聞きつけて、迎えるように顔を覗かせた。
そして後を着いて、小声でむにゃむにゃと何事か話している。(猫の言葉で)
「ハイハイ。マロンちゃんのも、ちゃんとするから、心配しないでね?」
『カツオ味のだ。アレが良いぞ。』テテテテ……
マロンは、焦げ茶色のちょっと長い毛足に金色の瞳の、ターキッシュアンゴラというスマートな猫だ。
縁があって譲ってもらって、まだ四ヶ月ちょっとで、自分も仔猫の域を出ないのに静かな落ち着いた猫だ。
『おい、チビのサビ猫。食え。』ズイッ
『飯か!?……うまっ!!ミルクの味もする!!』ガフガフ…
ちゃんとサビ猫のお兄ちゃんもしているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!