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「よく食べるねぇ。隼人君、仔猫用のカリカリはふやかすの忘れないでね。」
「わかってるって。今は離乳食だろ?まだヨチヨチ歩きだからな。」
お腹がポンポンになった仔猫が、コロコロと転げながら、早速隅っこの隙間に潜ろうとしている。
それを見た隼人は、ささっと捕まえて毛布にくるんで、ケージに入れた。
『あっ!!隅っこの隙間の確認が!!潜って探検しないと!!潜らせろ!!………ちぇ。隙を見て脱走してやる……ウトウト』
ボロボロの隼人のマフラーと毛布に挟まれて、ウニャウニャと暴れていた仔猫は力尽きて、ウトウトし始めた。
今日は、お風呂に医者に大忙しで、仔猫にとっては体力的にキツかったのだろう。
おまけに警戒心MAXで部屋を確認して、アチコチ動いているのだ。
「じゃあ、僕も帰るよ。大家さんには何時言うの?」
「早めに言った方が良いから、この後な。」
『ふぁあ……俺も眠い。光優、帰って寝るぞ。』ニャー
力尽きて阿波おどりのような格好で寝ている仔猫を見て、光優もマロンを移動用のバッグに入れて靴を履いた。
スマホを操作して大家に連絡をとる隼人の背中に、「じゃあ、明日貼り紙作ってくるね。」と声をかけて玄関を出た。
光優のアパートはペット可で、少し離れた所に有るので、夜の散歩がてらバッグから鼻先を出しているマロンと遠回りをして帰った。
「マロンちゃんは、良いお兄ちゃんしてたね。大好きなカツオのオヤツ買って帰ろうか。」
『カツオ!!ま、まあチビの面倒はお兄ちゃんが見るものだ。どうしてもというなら、俺は誉められても良いぞ。』ウニャウニャ
眠気などカツオの一言で吹っ飛んだマロンは、キャリーバッグの中でゴソゴソと動き回っていた。
(カツオと自分の名前は反応するんだ(笑)これじゃコンビニにつく頃には力尽きてるよねぇ。)
その通りだった。
マロンも大人びて振る舞うが、四ヶ月ちょっとの仔猫、静かになったと思って覗くと、ペタンと伸びた格好で寝落ちしていた。
おそらく、気合いを入れようと伸びをしていたら、その姿勢のまま夢の中へ旅立ったらしい。
次の日、一番可愛いであろう写真(ちゃんと一般的な可愛さ基準)と里親募集の要項を書いたチラシを持って、隼人と合流した光優は疲れた様子の彼に眼を丸くした。
「隼人君。大家さんと何か有ったの?それともチビ猫ちゃんの夜泣きかな?」
「大家さんだよ。月末までに里親見付けないと出て行けと……。」
昨日の大家さんとのやり取りを、簡単に掻い摘まんで纏めるとこんな感じだったらしい。
仔猫を拾って里親が見つかるまでで良いから、しばらくアパートに置いて良いかと聞いた所、一方的にガーッと喋り出したらしい。
「そうやってズルズルと飼われたら迷惑だ。猫や犬はアパートを汚すじゃないか!!」
「此方とて鬼じゃない。月末まで里親が見付からなければ出ていくか、処分するんだな。待ってやるから有り難く思いなさい!!」
等とマシンガンのように捲し立てられ、隼人が何か言う前にガチャンと切られてしまった。
「月末までって………今日は二十日なんだけど!?」
実質、受け渡しの段取りを含めたら、一週間をきっている。
そして、チラシの写真には、隠しきれない般若顔の仔猫が毛布に潜っている姿が有った。
一番可愛い写真でも、ムスッとした口元と鋭い目付きはわかってしまう。
更に間の悪いことに、明日からテスト期間で自由登校&レポート作成で皆忙しいのだ。
ツイッターやフェイスブックを駆使しても、圧倒的に時間が足りない。
「これは……お引っ越し案件かな。僕のアパートと同じような条件で一応当たってみようか?」
「ああ、実家のお袋にも連絡しなきゃだな。財布はお袋が握ってる。勝手に引っ越しなんて出来ないし、やったら不味いからな。」
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