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到底一週間じゃ里親が見付かる訳もなく、隼人と光優はせめて一ヶ月は欲しかったのだ。
しかし、大家さんはケージの外に出る動物(犬猫等)は部屋をボロボロに噛ると思い込んでいる。
実際は、うっかり脱走したハムスターが齧ったり、インコが壁紙にうんピーをしたりという部屋も有るのだ。
部屋主が必死に修繕しているので、大家さんにはバレてない。
そして時間が足りない二人の頭には、奇跡が起きて明日にでも里親が見付かるか、引っ越すかの二択しかなかった。
「取り敢えず、早く掲示板に貼らせてもらったり、みんなに配ったりしないと。」
「ああ、そうだな!!一番可愛い写真なんだから、すぐにメロメロになる奴だって居るはず!!」
自分達もレポートとテストが有るのに、合間にチラシを貼ったり配ったりで、夕方にはくたくたになっていた。
「…………手応え無いね。やっぱり忙しい時期だし、知り合いに聞いて貰うにしても無理が有るよ。」
「こんなに可愛い写真のどこがいけないんだろうな?」
半分は「写真映り悪いね。」「目付きが荒んでるよ。」とか言われた上で、遠慮しとくよと曖昧な笑顔で断られた。
「はぁ……しょうがない。引っ越しできるか電話してみるわ。」
「僕のアパートに一部屋空きが有ったんだけど………ファミリーサイズで値段が高いんだ。仔猫と二人暮らしじゃ広すぎるし。」
それぞれスマホを片手にため息をつく隼人と光優。
「あ、そうだ。僕の実家は大きいし、動物専門だから、里親の伝が有るかも。連絡してみるよ!!」
光優の実家は動物病院と小児科をそれぞれの祖父母が経営している。
ただし、場所は県を跨いで電車で一時間以上かかる。
「すまん。俺も今から電話して里親と引っ越しの件、相談する。」
purururu……purururu……ガチャ
「ハイハイ、吉行でございますー。」
「あ、お袋?俺なんだけど相談が有るんだ……」
「あらまあ、オレオレ詐欺は駄目よ、隼人。なぁに?彼女でも出来たわけ?結婚するの?」
息子とわかっててこの調子である。
「いやいや、そんな簡単には出来ないだろ!?てか、飛躍しすぎ!!じゃなくて!!ちょっと仔猫を拾って保護したから、引っ越し出来るか聞きたいんだけど。」
「はい!?仔猫とは、比喩的なオレのこねこちゃんじゃなくて?」
この人、息子にどうあっても彼女が出来て欲しいようである。
「いや、本物の仔猫を拾って里親募集中。お袋の知り合いで誰かもらってくれる人居ないか?」
「…………う~ん。そうねぇ………先ずはその子の写真寄越しなさい!!」
「あー、ハイハイ。………送ったぞ。」
「…………………………カ」
母親の元気一杯の声の圧に押され、横でネズミのおもちゃとひっくり返って格闘している般若顔のサビ猫を送った。
途端に、母親のスマホが静かになって、耳をすますと微かに何か言っている声が聞こえた。
(何か電波悪いのか?)
よく聞こうと、音量をあげた瞬間。
「可愛いー!!!何これ、かっわいいーー!!ズルいわよ、隼人ー!!!何でウチで飼っちゃ駄目なのよ!!あんたが飼えばウチの子じゃないの!!なんでなんでー!!!?」
「うわっ!?何なの、隼人君。どうしたの!?」ビクッ
「ウギャッ!?何だよ、お袋!!何でってここは小動物オンリーなんだって!!だから、引っ越し出来るか聞いてんだろ!?耳が潰れるわ!!」
『何、敵か!?何処から声がしてんだ!?』ビビッ
驚いたサビ猫が隼人の服に潜り込み、光優はスマホを取り落としそうになり、隼人は耳がしばらくキーンとなって鼓膜にダメージが(笑)
「良いから、引っ越しね!?近くに探さなきゃ!!母さん、仔猫ちゃん直で見たいわ!!ちょっと、お父さーん、隼人が猫飼うから引っ越しなのよ~!!」
いや、まだ里親が決まるかも知れないっつってんじゃん。
光優の方であっさり決まるかも知れないだろう?
「隼人君、今より結構高くなるってお母さんに言った?埋まってるとこでも、相場が……」
「いや、これは舞い上がって聞いてないパターン。実家で飼うとかなるかも。」
『く、来るなら来い!!俺は逃げないぞ!!』フシャー
流石、隼人の母親、可愛いの基準が同じような親子だった。
服に逃げ込んだサビ猫は外から隼人に支えてもらって、服の襟から顔を出し、スマホに向かってシャーシャー言っている。
余程、大音量に驚いたらしく、毛並みがぶわっと逆立っていた。
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