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「お前は良い子だな、みゆ。……ちゃんとお前にポチと認識させられれば……いやしかし、光優が一人暮らしで居らんから、つい寂しくて、なぁ。」ポスポス……
「光輝は本当に、そういう所が抜けてるのよねぇ。自分の名前が知らない内に犬に付けられてたら、光優も呆れるわよ?」
みゆを撫でてモフモフを堪能していた光輝は、その言葉にピタリと止まって、錆びついたロボットのように碧の方へ向き直った。
「や、やっぱり、光優に、き、嫌われるだろうか!?あわわ……☆%#※※!!#%&&!!!」
「ドイツ語でパニクん止めなさいな。(相変わらず面白いわ。今日の日記に書いとこ♪)」
『大丈夫!!僕はおじーちゃん、大好きだよ!!』ワフワフ
みゆと聞いてワンコは、僕の事を話してる♪と益々尻尾をブンブン振ってご機嫌になった。
でも、大好きなおじーちゃんは、あの日からなんだか歩き難そうで、みゆは心配で手をペロペロと舐めて慰めてあげるのだった。
『お散歩、行けなくてつまんないね。僕、もっと大きくなったら、おじーちゃんを乗っけて歩いたげるね!!』キュゥン
実際問題、いくらアラスカンマラミュートが大きくても、190センチ近くある大柄な男性は乗せられない。
だが、仔犬の頭には限界という文字はなかった。
素直に、頑張って大きくなるぞ、という純粋な目標が有るだけだった。
『お兄ちゃんが帰ってきたら、練習しなきゃ!!いつ帰ってくるのかな~。お兄ちゃんが乗せれたら、おじーちゃんも乗せられるよね!!』フンフン
そのお兄ちゃんこと池田光優は、駅の正面玄関口で父親の迎えを待っていた。
地元では有るが、光優の容姿は人々の視線を集めまくっていた。
柔らかなクセッ毛の黒髪に白い肌、蜂蜜色の瞳、頭一つ分抜きでたモデル体型、親子三代の良いとこ取りの人形のように整った顔。
地味な色合いの服装だが、たまに不安そうに視線を巡らせる姿が、本当に生きている人だと認識されて二度見される。
「ううん。やっぱり僕って、どこか変なのかなぁ。また、人形みたいで気持ち悪いって思われてる?出来るだけ、愛想良くしてるのに……」
ぶっちゃけ、光優は人間が怖い。
正確には、欲望を剥き出して群がって、理想を押し付けるストーカーが怖いのだ。
隼人のように、普通に友人として明るく接してくれたり、普通に近所付き合いとして仲良くするなら大丈夫になった。
「うう……良い歳して格好悪いよ。もう子供じゃないし、か弱い女の子じゃないのに。」
『光優、どうした!?俺を出せ!!俺を抱っこしたら落ち着くから。』カリカリ……
光優の呟く声に、何か感じたのかマロンがキャリーバッグをカリカリと忙しくなく引っ掻いて居る。
その音に、気が付いた光優が表情を緩めて、リードをつけたマロンをバッグから出すとゆっくり抱き締めた。
腕の中で大人しくしているフワフワの毛玉に、癒されてると、ようやく父親の輝美が駐車場から走ってきた。
「スマナイ、遅れました。週末の渋滞を甘く見てましたよ。ミュー、急に帰ってこいとかビックリしたでしょう。」
海外暮らしが長かった父親は、何故か祖父の光輝よりも所々イントネーションが変わっている。
光優よりも光輝よりもデカイ図体だが、親子そっくりなので人形めいた巨人である。
「ううん大丈夫だよ、父さん。マロンが一緒だったし、おじいちゃんが怪我して大変でしょう?」
「ミューは良い子ですね。可愛いミューを一人にさせてしまい、父親失格です。」
すっかり大きくなった愛息子をギュゥッと抱き締めると、輝美はスーツケースを持ってさっさと駐車場へ向かった。
何せ、光優は小さい頃から天使のように可愛かった為に、ストーカーが付きやすかった。
大きくなって美丈夫になっても、男女比率が変わることなく数だけ増加した。
全部影で叩き潰して、本人にも気を付けるようにさせて………だが油断すると、また何処からか湧いてくるのだ。
勿論、輝美にも光輝にも碧にも美彩緒にも……血縁者には大体一人二人湧いてくるのだが、光優の吸引力は凄かった。
無愛想でもがさつでもなく、ニコニコと人当たりの良い気配り屋な性格なので余計に付け込まれるのだろう。
(厄介ですね。光優に乱暴者になれと言うわけにはいきませんし、人に嫌われるのを無意識に恐れてますからね……やはり、ストーカーのせいですか!!アレですか!!)
そういう点では、今回の事は良い事だったのかも知れない。
祖父の光輝には悪いがこれも可愛い孫の為、我慢してもらいましょう。
「父さん?どうしたの、難しい顔して。おじいちゃん、もしかしてアレから何か有ったの?」
「いえ、そうでは有りません。ただ、貴方には苦労を掛けますね……。」
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