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僕の方こそ、父さん達に頼ってばかりで……と申し訳なさそうに後部座席で身を縮める光優だったが、この容姿でまだ未成年なのである。
成人が二十歳とするなら、光優は三月生まれの為、後最低でも一年半は未成年なのだ。
「後二年は頼って貰わないと、少し寂しいですよ。ミューは、ちっともワガママを言いませんからね。」
最近のおねだりらしきものはと言えば、離れたくないから、マロンを飼えるアパートが良いと言ったくらいだ。
特にゲームや漫画で散財をするでもなく、友人と遊んで帰宅が遅いということもなく、ニコニコと家の手伝いをする男子高校生など珍しかったのではないだろうか?
「学校は楽しいですか?美彩緒が言っていましたが、お友達が出来たんでしょう?」
「うん、元気で明るくて豪快だけど、とても優しくて人に気遣える人だよ。吉行隼人君って言うんだ。」
大学に入ってから知り合ったが、おおらかな性格の隼人と穏やかな世話好きな光優は、何となく気が合った。
隼人は豪快なクセに、人と距離感を取るのが上手く、土足で人の心に踏み入るような真似はしないので光優は安心できるのだ。
逆に、初対面でベタベタ触ってくる女子は、光優の最も苦手な人種の一つだった。
笑顔で猛烈アピールをかわすけど、いつ地雷を踏むか内心冷や冷やしている。
"思ってたのと、違う!!騙された!!"
"何で○○が告白したのに、付き合ってくれないの!?酷い!!"
そう言ってキレる女性と遠巻きに、アイツだけモテやがって、と睨む、赤の他人同然の無関係な男性陣。
親しくしてくれる友人と家族は、同情的だったが光優は、自分の事なのに上手く立ち回れない、とへこむのだった。
(もっと上手に人付き合い出来る筈なんだけどなあ。普通はこんなに恋愛って大変なものなの?見た事も話した事もない人と付き合えって………僕には無理だよぉ。)
そんな光優の様子を、バックミラーでチラ見した輝美も、内心溜め息を吐いた。
(見た目が父さんに似て、私達は派手ですからね。一晩で良いとかグイグイ来る、訳の分からない輩も居ますから、人当たりの良い光優は大変でしょうに。)
大事な事だが、光優は大人っぽい容姿でまだ未成年なのである!!
高校卒業したばかりの十八歳で、卒業式には誕生日も来ていなかったのだ。
やがて車は実家の車庫に着き、母親と祖母が迎えに出てくれた。
「ただいま、母さん、おばあちゃん。おじいちゃんの具合はどうなの?松葉杖?車椅子?相手の人は、ちゃんと捕まったんだよね!?」
荷物を抱えて心配そうに、車から降りた光優は真っ先に祖父の容態を聞いた。
電話での歯切れの悪さが、やはり引っ掛かっていたようだ。
「ああ、安心しな。光輝は足以外ピンピンしてるし、ひったくりはしっかりと捕まえたわよ。」
電話のやり取りから心配していたと、事情を聴いた碧が吹き出しそうになるのを押さえて、やんわりとその懸念を否定した。
「お義父さんがモジモジしてたのは、別の事よぉ!!あっはっは!!」
母親の美彩緒は、我慢しきれず大爆笑だった。
「お義父さんったら、犬に名前付け失敗してねぇ!!ワンコの名前があんたと一緒になっちゃったのよ。いやー、アタシ等もつい本当に似てるもんだから、光優にそっくりねって言ってたから同罪だけど!!」
それで、部屋に引きこもって様子を伺っていると言うのだ。
「…………今更ながら、貴方に申し訳無いとびくついてるんですよ。可愛い孫に呆れられるって。」
おじいちゃん、僕の心配返してよ!?
あの元気で、俺は俺様の道を行く!!みたいなおじいちゃんが、言い澱むからもっと深刻な問題が有るのかと思ったのに!!
「え……?犬ってハスキー犬の名前?ポチって付けるって言ってたのに?この前の休みまではポチだったよね!?」
犬はポチだとか言っていた筈の祖父が、まさか自分の名前を付けるなんて思わない光優は、拍子抜けして口がポカンと開いた。
「あ~、そうそう。ワンコのみゆはアラスカンマラミュートだったわ~。ハスキーにしちゃ、手がもふもふでデカイと思ってたのよね。」
もう、私の腰くらい有るわよ、とニコニコと続けた祖母に、またもや絶句である。
大型犬の散歩なんて、よくもまあ、今まで老齢に差し掛かった祖父がやれたものだ。
ひったくり犯も、そんなデカイ犬が居るのにチャレンジャーである。
気が付くと、祖父がリビングの掃き出し窓のカーテンの隙間から覗いていた。
その祖父の足元に居るデカイ犬が、ワンコのみゆなのだろう。
こちらを見付けて、尻尾がブンブン振られている。
「本当にアラスカンマラミュートだ。大きくなったなぁ……(みんなの目には、あの子と僕がそっくりに見えるんだ。喜ぶ所、なのかな?褒めてるのかな?)」
ガラス戸を開けて貰って、飛び出した仔犬のみゆは、久々のお兄ちゃんとマロンちゃんに大はしゃぎである。
『お兄ちゃーん、僕、頑張っておじーちゃんを苛めた人は、やっつけたよ!!ドスンドスンって体当たりして乗っかったんだ!!』ハフハフ……クンクン
嬉しすぎて、その場で足踏みをしてぐるぐる回ってるデカイ仔犬は、キラキラした目で武勇伝をお兄ちゃんに報告している。
犬語は通じてはいないが、なんだか仔犬がどや顔なので光優は、首をガシッと捕まえて揉みくちゃに撫で回してやった。
「この子がひったくり犯の上に乗っかって、吠えてたから、直ぐに近所の人が通報してくれたんだよ。もっと褒めてあげな。」
碧が内心(あらやだ、そっくりに拍車が掛かっててダブルで可愛いわ)等々思いながら、事件の顛末を改めて説明して、みゆの功績を教える。
「そうだったの!?偉いね………えっと……みゆ?」
ワフッ!!と元気に返事をする仔犬を見て、本当に自分の名前をみゆって思ってるよ、と苦笑した。
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