桃太郎きたなう

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桃太郎きたなう

今、俺は大ピンチの局面を迎えている。 なぜなら、ここダンジョン鬼ヶ島に桃太郎とかいうピーチな名前の野郎が乗り込んできて、俺の配下の鬼共がことごとく駆逐され、今にもこのダンジョンマスタールームまで辿り着きそうだからだ。 ダンジョンマスターが何かって? この世界にはダンジョンっていうのがあってだな、俺はその中でもダンジョン鬼ヶ島のマスター。このダンジョン造った責任者ってやつだ。 左胸に「ダンジョン創造主 塩板シオ」と書かれた名札も付けているぞ。 変な名前だと思ったやつは──その通り。まごうことなき変な名前だ。 この世界に来てから、どうにも記憶喪失なんだ。 塩板っていう苗字は思い出せたんだけど、肝心の名前が思い出せない。思い出せないまま最初に創造した赤鬼に、「俺、塩板。よろしくな」と挨拶。「じゃ、シオさんっすね」と返された瞬間【あなーたのなまーえはシオにけってーい】と、おかしな日本語が頭に響いたんだ。 あの変な喋り方は、俺をこの世界に飛ばした自称神様と名乗ったチャワードの声だった。 チャワードと何があってこの世界に来たのかってのは、ちょっと置いておいて今は桃太郎。 相手は桃太郎一匹。桃というより腐りかけた桃にたかってる蠅みたいな野郎なのに、こいつが強い。強過ぎた。俺のダンジョン一面から百面まであるのに破竹の勢いで制覇し、対桃太郎用に仕掛けたえげつない罠も隠し部屋もなんのその、ダンジョン鬼ヶ島の各階層を守るボス赤鬼・青鬼・緑鬼・紫鬼・桃鬼・黄鬼・橙鬼・白鬼、シークレットの金鬼・銀鬼たちまであっさり討伐された。 桃太郎がくる。 鬼より鬼らしい強さを見せつける恐ろしい桃臭巻き散らかす野郎が、俺の居城を滅茶苦茶にして、俺の安眠部屋であるダンマスルームまでやって来た。 ドドドドドドドーーッと走ってきて、スパァァーーン!と、襖が開く。 俺の部屋は和室なのだ。扉は襖と障子で、床は畳だ。 俺は畳の上で正座をして待ち構えていた。 いざとなったら腹くくろうと、白い装束を身につけてのご対面だ。 「髪が黒い。お前が噂の黒鬼か」 桃太郎登場第一声がこれ。 全速力で走って来ただろうに、息の一つも、桃色ロングな髪の毛一本も乱さずに、桃太郎は淡々と俺に向かって誰何する。
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