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ベッドに横たわってから、1時間が経ちました。
さすがに1時間も休めば体の調子も元通りです。本質を突くと、体は依然と変わらず悪性腫瘍に蝕まれているのですが。ゆっくりと起き上がると、一階から美味しそうなお肉の匂いがしてきて、吸い寄せられるように一階へ降りていきました。
明るいリビングの灯りに目を細めながら、テーブルに目をやると、そこには緑野菜たっぷりのお皿と、キッチンペーパーの舞台に立つ無数のとんかつとエビフライ、カキフライの姿がありました。
胸の痛みなどどこへやら、口内にはよだれが絶え間なく溢れてきていました。
「あっ、ゆんゆんちゃん!」
突然、重い何かが体に絡みついてきて、ぴくりと震えました。
「守から聞いたの。突然倒れたんだって? 私もう心配で。大丈夫? 痛くない?」
青山くんのお姉さんでした。スーツから溢れるスイーティな香りが鼻をくすぐります。
リビングのドアの前でぼけっととんかつに見とれていたわたしは、背後から近づくお姉さんの姿に気づかなかったのです。
「おい、姉ちゃん! ゆんゆんにべたべたすんなよ。倒れたばっかなんだから」
台所からひょこりと顔を出した青山くんが叱りつけます。クマさんのエプロンにピンクの三角巾を着けていて、失礼ですが全く似合っていません。
「何よ? あんたに繊細な乙女心の何がわかるってのよ。女の子の大丈夫って言葉を真に受けてたら、いつの間に相手は死んじゃうんだからね?」
「何が女の子だよ。姉ちゃんの歳で繊細な乙女心とか、言ってて恥ずかしくないのかぐふぁ!?」
高速回転したビジネスバッグが、青山くんの顔面に直撃し、青山くんは頭から床に倒れました。
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