二章 It`s a piece of cake

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その後は結局、お姉さんと話す暇もないまま、お風呂をいただいて、お姉さんの黄色いルームウェアに身を包み、鞄から教科書とノートを取り出して、青山くんと共に予習を取り組みました。 朝早くにするより、夜に勉強する方がやはり精神的に落ち着くのでしょう。青山くんは静かに黙々と居眠りをし始めたので、予習が終わるまで計5回程度のげんこつを落としました。 そして、明日の用意を終わらせて、こっそりと薬を服用し、お互い寝床につきました。 静かで優しい夜のこと、月は皆を見守り、虫は夜の街を彩ります。ふかふかのベッドにお布団。誰かが夜の家に訪れる気配もせず、このまま消えてしまいたいと思うこともない、夜のこと。 やはりわたしは、全身の力が抜けてふにゃふにゃとしていました。 横で微かに聞こえる、青山くんのいびき。うるさいものですが、これはわたしに危害を与えない人が近くにいる、という事実を知らぬ間に主張しています。だから、こんなに安心するのでしょう。 胸に右手を当てて、鼓動を感じとります。 とくん、とくん。いつもと変わらない脈拍のリズム。これが続くのは、そう長くありません。 明日かもしれない。 それとも、1時間後かもしれない。 それか、もしかしたら1分後? いえ……1秒後かもしれません。 いつ異常を起こすともわからない、そんな心臓なのです。 意識するだけで、微かに足が震えました。いえ、足だけじゃなくて、お腹の辺りも、肩も、全身が恐怖で震えていました。 死。それは全てをわたしから奪うものであり、わたしをこのゴミ溜めのような世の中から解放するものでもあるものです。 迎え入れなければいけないものです。むしろ、喜ばしいことなのです。わたしはこれを喜んでいたではありませんか。 その気持ちに、嘘偽りはありません。 「……寝よう。寝なきゃ」 震えが止まらず、わたしは暑いのに布団を丸ごと被り、早く眠気が来るのを今か今かと待ちました。
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