二章 It`s a piece of cake

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「……夢じゃない、よね」 冴えた頭で今の状況を分析します。夢ならばこんなにも鮮明に思考回路が働くことはありえません。これは現実です。 なぜか空に浮かぶわたしの身体。今消えていった謎の存在。頭が全く今の状況についていきません。これからわたしはどうなってしまうのでしょう。 と、終わらない思考を続けていると、また先ほどと同じように目の前が煌びやかに輝き、さっきのシルエットが再び現れました。 『……もう、なーにが、『使命を全うせずに帰ってくるとは何事ですか!』って、うるさいっつーの。あんたにわたしの何がわかるってのよ。これ結構大変な仕事なのよ? 『あなたより私の方が現実世界とこっちと両立しているから大変なんですよ』って、わたしを再任用しといてわがまま言うなっての。あんたの事情なんて知らないっての。それを言うならわたしもテレビのロケとかで神経すり減らしてるんだっての。だいたい……』 先ほどの神々しい雰囲気とは打って変わり、ぐちぐちと何か文句を言いながら、その存在は何もない空間から突如現れました。 警戒の目を強めると、その存在は一瞬動きを止めて、きょろきょろと辺りを見渡し、わたしを視界に捉えた瞬間、まるで大寝坊した女子高生のように、あわあわと慌てだしました。 『ふぁっ!? やば、もうこっちの世界に来てた!! ご、ごめん優衣ちゃん!! さっきは勝手に帰っちゃって悪かったね。もういっか、って思ったけど、もう一回だけやって来たよ!!¨もういっか¨だけに!! なーんてね!! あははっ!!』 「……」 この存在が、人間なのか宇宙人なのかやはり夢なのか、はっきりとはわかりませんが、一つだけ確かなことがわかりました。 この存在は、青山くんと並び立つ、おバカです。 『い、今さ、もしかしたらさ、いやもしかしなくてももしかしてもだけど、わたしが言った変な独り言、もし聞こえてたらすぐに忘れてくれると嬉しいな。えへへ、いや、まぁ確かにいずれは忘れてしまうことなんだけど、ね?』 そう考えてしまえば、恐怖も困惑もするだけバカバカしくなってきます。 わたしは努めて冷静に、その存在に向かって話しかけました。 「あの、あなたは一体何者で……」 『ああああああああぁぁぁ!!!!!』 と、話しかけた瞬間その存在が耳をつんざく大声をあげて、何か懐から取り出しました。 『あぁっ!! やっぱり先輩の個人天使電話からだ!! 『大至急戻りなさい。お話があります』だって!! 絶対今の独り言聞かれてたあ!! もう最悪!! なんでわたしって昔からこんなに辛い目ばっか遭わなきゃいけないのよ!!』 「あの、わたしの話を聞いて……」 『うるさい!! もう寝てて!!』 そう言われ、その存在がわたしの頭上へ乱暴に手を伸ばし、ぐいっと何かを掴むような動作をとった途端、全身に強い重力を感じ、わたしの身体はあっという間に落っこちていきました。
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