二章 It`s a piece of cake

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さて、それでは何を聴きましょうか。スマホにはお気に入りの曲がごちゃごちゃと入っているので、とても迷います。 定番は、青春恋愛ソングの女王、inoriさんの「赤面症ラプソディ」とか、「おさな恋」でしょうか。 雅という言葉を体現したような、綾さんの「答えは海に沈んでいる」とか、「双宿双飛 鴉立つ」でもいいですね。 ファンタジックな曲調を楽しみたいなら、マツモトさんの「やがて花は楽園に至る」とか、「レンタル家族」なんてどうでしょう。 あれこれ悩みどころですが、いちいち悩んでいては時間の無駄ですので、ランダム再生で流してみることにしました。 青空を見上げ、わたしはランダム再生のボタンをタップしました。 その時です。 「ふーん、”リリーホワイト”なんて聴いてんだ。神山のくせに選曲のセンスだけは良いのね」 悲しげなピアノの旋律が流れ出した途端、嫌味ったらしい大声が聞こえてきたのです。そして青空が陰り、華奢な制服スカートの女子が現れました。 わたしはその声と姿に覚えがあったのと、誰も来ないはずの屋上に侵入者が現れたことに、苛立ちを覚えました。 「神山ー? ちょっと話があるんだけど、顔貸しなよ」 紡木さんです。わたしの休憩時間を邪魔したことは気にも留めず、脅迫を彷彿させる声色で、彼女はわたしに話しかけたのです。
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