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「……何の用ですか」
逃げ場がないまま話しかけられてしまったので、わたしは渋々とイヤホンを外して、起き上がりました。
そしてできるだけ冷ややかな視線を、これでもかと紡木さんに浴びせます。しかし彼女はわたしの視線など意にも介さず、にやりと笑います。
「いやさぁ、あんたみたいなのにしか頼めないわけよ。言っとくけど断る権利はあんたにないから、断ろうとは思わないでよ」
「どうしてわたしが、あなたの頼みを聞かなくてはいけないのですか。時間の無駄です。早くここから出ていってください」
「んー、あれ? そんなこと言ってもいいのかな?」
「いい加減にしてください。わたしにはそんな時間なんてないんです」
「あっそ。じゃあ、これなんだけど──」
そして、紡木さんは懐から一枚の写真を取り出して、わたしに見せつけました。
写真に写っていたのは──。
「っ!?」
それは紛れもなく、わたしの家でした。
青山くんと住んでいる家ではなく、その前の、元のわたしの家でした。
「あんたの家よ。ほら、神山ってさ、誰も家に呼びたがらないじゃん? だから、こっそりあんたの後をつけて、住所を突き止めたのよ。ふふっ、綺麗な家よねぇ」
冷汗が垂れてきて、体温が低くなっていきます。徐々に息遣いが荒くなり、その家を見るだけで震えてきました。
──せっかく、忘れかけていたのに。
青山くんの家に居候するようになって、あの暗黒の思い出を、ようやく忘れ去ることができると思ったのに。
「……ど、どうする気ですか?」
動揺を隠せず、おどおどとした口調で尋ねました。
紡木さんは、そんなわたしを見て邪悪な笑みを浮かべると、女王が平民を見下すように言いました。
「──お願いを聞いてくれなかったら、クラスメイト全員にバラすから」
「……それだけは、やめてください……」
「じゃあ、お願いを聞いてくれるのね?」
すごく惨めな気持ちでした。今まで眼中に止めていなかった紡木さんなんかに、思い通りに利用されようとしているのです。
これは、最近感じた幸せがあまりにも大きかったことに対する、罰なのだと強引に理解しなくては、怒りの気持ちを抑えきれませんでした。
「……はい。何でもします」
「ふふふっ、いいお返事をどうも。じゃあ、早速命令よ。ついてきて」
わたしは、一体どうなってしまうのでしょう。
処刑台に向かう罪人のように、わたしはとぼとぼと紡木さんについていきました。
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