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連れてこられたのは、香椎山高校の家庭科室でした。
あまり人通りの少ない三階廊下の片隅にある家庭科室は、ほんのり薄暗く、生徒たちでこっそりと何かを企むにはうってつけの場所でした。
そんな、教師の目に届かない家庭科室に連れてこられたら、どうなるのかは明白でした。
「……よし。誰もいないわね」
屋上に行く前のわたしと同じように、紡木さんも辺りをきょろきょろ見渡して、誰もいないことを確認すると、家庭科室の窓をそっと開けて、中に入りました。
「ほら、中に入って」
中から呼びかけられて、わたしも同じように窓から家庭科室に侵入しました。
わたしが入ったのを見届けると、紡木さんはゆっくりと窓を閉めて、ほっと一息つきました。きっと、わたしを虐めるための準備が整ったことに、安堵しているのでしょう。
「さて……じゃあ、神山。まだるっこい話は抜きにして、単刀直入に言わせてもらうわね」
ごくりと唾を飲み込みます。こんな一大事に青山くんは何をしているのでしょう。彼女の危機に駆け付けなくて何が彼氏ですか。何がわたしのことが好きですか。
今からわたしは──漫画やドラマで出てくるような、痛いことをされたり、屈辱的なことをしたりしなくてはいけないのでしょう。母親からされたようなことをされるのでしょう。
残り余生が少ないというのに、なんて不運なのでしょうか。わたし。
「神山……」
紡木さんの目がぎらぎらと尖り、めらめらと炎のようなオーラを発して、彼女は言いました。
「あたしに!! ふわふわ!! 濃厚で!! あま~~~~~~~~~~~~~~~~~いケーキの作り方を!! 教えて!!!!」
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