二章 It`s a piece of cake

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「ん、なんだ紡木か。おはよう」 「あ、おはよ。青山も結構早いわね──じゃなくて! そんな軽々しく挨拶しないでよ。キモいんですけど」 綺麗なノリツッコミでした。この間の時とは違って、何やら心に余裕があるようにみえます。言葉のトゲも今日は少し欠けています。 「いや、挨拶って、お前から挨拶してきたんだろ」 「え? あ、あぁ確かにそれもそうね。えっと……うん」 「あ、それと昨日はありがとな。いろいろ助かった」 「ど、どういたしまして。別にいいわよ。私は別になんとも思って……あっ」 「……昨日?」 ──え、昨日? 昨日といえば、ヴォルちゃんを見に行った時のことです。 「……あの、青山くん。昨日紡木さんに会ったんですか?」 「えっ? あぁ、会ったぜ。お前も礼言っとけよ。あのな、紡木は……」 と、そこで青山くんがの口の動きが止まりました。 視線がゆっくりとわたしの方を向き、次に紡木さんの方へ向き、静かに目が閉じられます。まるで何か取り返しのつかないことをして、頭を整理させるように。 そして、その3秒後。ぱっと目を開いて、話を再開しました。 「すまん。やっぱり会ってない。紡木とは」 「……無理がありませんか。青山くん」 「そんなことはない。俺は何も知らない。と思う」 「なんで濁すんですか。あの、青山くん。昨日紡木さんは一体何を……」 「神山!!」 と、追及しようとすると、紡木さんが必死に話に割り込んできました。その姿はまるで肉食動物から逃げようとするシマウマのように鬼気迫るものでした。 「今日の昼休み! 絶対教室にいなさい。クラス全員に大事な話があるから!」 まったく話題の異なる話を振ってきました。 それを無視して青山くんを問い詰めたい気持ちになりましたが、なんだかもう面倒くさくなって、適当に受け流すことにしました。 「はい、わかりました」 「ふん、わかればいいのよ。このでくの坊」 「確かにわたしの身長は紡木さんよりずっと高いですが、ひょっとして身長のこと気になるのですか? よければ良い方法を教えても……」 「うるさーーい!! とにかく!! 昼休みに教室いなかったらガチでリンチするから!! いいわね!?」 眠りを妨げられた番犬のように元気に吠えて、紡木さんは去っていきました。 「な、何だったんだろうな、あれ」 青山くんにはまだ問い詰めたいことがありますが、今度時間をとってゆっくり聞くことにしましょう。 そう決めて、わたしと青山くんは教室で予習を始め、授業に臨みました。
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