二章 It`s a piece of cake

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つまらない授業を適当に受け流して、昼休みになる頃にはお腹もすっかり空いていました。 今日のお弁当はいつもと違います。いつもは賞味期限切れのお弁当を詰め込むだけのゴミ溜めのようなものですが、今日のお弁当は。 「……青山くん。早くお弁当食べましょう。わたし待ち切れません」 「あ、あぁ、そうだな」 「何で出し渋っているのですか。ほら、早く」 「いや、だってこれ……」 そう言って青山くんはお弁当を取り出しました。 ──運動会でよく見かける、重箱を。 「高級感があっていいですね。清潔感があって素敵です」 「馬鹿野郎!! どこの世界に重箱に弁当作って持ってくるやつがいるんだよ!?」 「仕方ないではないですか。2人分のお弁当を1箱で済ませるには、こうすればいいってお姉さんが……」 「あぁ……あのバイオレンスゴリラ、余計な入れ知恵を」 「それよりもほら、中身が気になります。開けてみましょう」 是非を問わず、わたしは手を伸ばして蓋を開けました。 そこに入っていたのは──。 「………………」 「おい、どうしたゆんゆん……って無言で泣いてるし!? な、何でだよ!? おい!! 大丈夫か!?」 唐揚げ、卵焼き、きんぴらごぼう、ミートボール、肉じゃが、ほうれん草のお浸し、ひじき。 そして第二の重には、『召し上がれ』と海苔で書かれたご飯。 嫌な匂いもしない、スーパーのお惣菜でもない、人肌を感じられるような温かいお弁当が、わたしを見上げていました。 「……ごめんなさい。こんなお弁当、見たことなくて」 「あ、あぁ、それは確かに。姉ちゃんが昨日張り切って作ってたんだよな。ゆんゆんちゃんのために頑張るかーって、気合い入れてたし」 青山くんのお姉さんは、神に違いありません。 正直、青山くんの血が流れているというだけで軽んじていましたが、青山くんのお姉さんは完璧超人さんです。 こんなわたしに、こんなお弁当まで作ってくださるなんて。 「てか、見たことないって、ゆんゆんの家はどうなんだよ。弁当作ってもらったことないみたいなこと言って、さすがにあるよな?」 「……いえ、わたしの親は忙しいので、いつもわたしが作っています」 不快なことを一瞬思い出してしまいました。これだから青山くんは、どうしようもないのです。人が感動しているときに水を差すなど、もはや人ではありません。 まったく、ろくな人を彼氏にしてしまったものです。
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