二章 It`s a piece of cake

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「青山くん、そういえばあなたは嘘をついていましたね」 紡木さんのどうでもいい話は、放課後にはすっかり忘却の彼方へ旅立っていきました。 帰る方向が変わり、青山くんとまっすぐ家に帰る時、わたしは青山くんのついた嘘に気付いたのです。 「何だよ、急に。俺は嘘なんかつかねえよ」 「いいえ、ついてます。あのですね、青山くん。わたしの帰る家はこの間変わりましたが、あなたの帰る家は変わっていません。どういう意味かわかりますか?」 「意味って、そのままの意味だろ」 「だから、通学路の話です。来る時は寝ぼけていたので気付きませんでしたが、今ならわかります」 青い空。白い雲。空気も澄んでいます。平凡という二文字が世界化したならば、こんな世界のことを言うのでしょう。どこかの動物の世界を彷彿とさせる、ほのぼのとした景色です。 ただ──。 「わたしと一緒に帰るときの道、前と全然違うじゃないですか」 わたしたちが住んでいるのは、香椎山町。中央にこの町の象徴たる香椎山があり、香椎山高校を出て山を目指すように、わたしたちは帰っていました。 ところが、青山くんの家はその隣町。神宮町です。山を目指すどころか、山から離れるように帰らなければいけないのです。 つまり、どういうことかというと。 「わたしと一緒に帰りたいがために、今まで遠回りして帰ってたんですね」 「……」 「そこ、都合の悪い時だけ黙らないでください」 「あ、そうだ。最近引っ越したんだよ。だから、帰り道も変わっただけなんだ」 「今思いつかないでください。急に引っ越さないでください」 青山くんは、茹でられたミズダコのお刺身のように頬を赤らめて、顔を背けました。
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