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「……それ以上言ったら家に上げねえからな」
「そんなの、汚いです。わたしの大好きな青山くんが、そんな汚いことをするわけがありません。そうですよね、かっこよくて素敵な青山くん」
「……頼むから、本当にやめてくれ」
青山くんを虐めながら、普段とは違う帰り道を楽しく帰ります。新鮮で、気持ちの良い帰り道です。
何が気持ち良いかって、帰る家には母がいないということです。いつもは、帰り道の終わりイコール虐待の始まりと捉えていたのに、今日は帰ってもなお、ずっと気持ちが良いままでいられるのです。
これが、どれほど嬉しいことでしょうか。
「あ、あぁ、そうだ。今日の夕飯は俺が当番だったな。ゆんゆんは、何が食べたい?」
「話の誤魔化し方が壊滅的に下手ですね。青山くん。こってり料理で」
「わかった。さっぱり料理にしてやる」
「ごめんなさい。謝りますから許してください。この通りです」
──それに、何故でしょう。
わたし、以前に比べて、青山くんに随分馴れ馴れしくなったような気がします。
青山くんといえば、彼氏という記号以外はどうでもいい存在だというのに、どうしてこんなに意地悪をしたり、甘えたりしてしまうのでしょう。
青山くんなんて、全然好きではないのに。
残りわずかな余生の中で、記念を作るためだけの彼氏なのに。
「わかったよ、とんかつにしてやるから。ただし、おろしポン酢はセルフサービスだからな」
「さすが青山くんです。かっこいいです。身長が高いです。あとは……えっと」
「褒め言葉のレパートリーが少な過ぎだろ」
「ごめんなさい。青山くんの良いところを考えてみましたが、全然思いつかなくて──っ!?」
と、その時でした。
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