二章 It`s a piece of cake

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「……それ以上言ったら家に上げねえからな」 「そんなの、汚いです。わたしの大好きな青山くんが、そんな汚いことをするわけがありません。そうですよね、かっこよくて素敵な青山くん」 「……頼むから、本当にやめてくれ」 青山くんを虐めながら、普段とは違う帰り道を楽しく帰ります。新鮮で、気持ちの良い帰り道です。 何が気持ち良いかって、帰る家には母がいないということです。いつもは、帰り道の終わりイコール虐待の始まりと捉えていたのに、今日は帰ってもなお、ずっと気持ちが良いままでいられるのです。 これが、どれほど嬉しいことでしょうか。 「あ、あぁ、そうだ。今日の夕飯は俺が当番だったな。ゆんゆんは、何が食べたい?」 「話の誤魔化し方が壊滅的に下手ですね。青山くん。こってり料理で」 「わかった。さっぱり料理にしてやる」 「ごめんなさい。謝りますから許してください。この通りです」 ──それに、何故でしょう。 わたし、以前に比べて、青山くんに随分馴れ馴れしくなったような気がします。 青山くんといえば、彼氏という記号以外はどうでもいい存在だというのに、どうしてこんなに意地悪をしたり、甘えたりしてしまうのでしょう。 青山くんなんて、全然好きではないのに。 残りわずかな余生の中で、記念を作るためだけの彼氏なのに。 「わかったよ、とんかつにしてやるから。ただし、おろしポン酢はセルフサービスだからな」 「さすが青山くんです。かっこいいです。身長が高いです。あとは……えっと」 「褒め言葉のレパートリーが少な過ぎだろ」 「ごめんなさい。青山くんの良いところを考えてみましたが、全然思いつかなくて──っ!?」 と、その時でした。
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