26人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしはもう情けなくて、青山くんの顔を見ることができませんでした。
この押し寄せる苦痛は、間違いなく、悪性腫瘍によるものです。最近は痛む頻度が減ってきたので油断していましたが、このように急に苦しみ出すことがあるので、本来なら油断してはいけなかったのです。
それなのに、油断していたどころか、何も知らない青山くんに助けられる始末です。おまけに、通報されるところでした。
通報なんてされたら、わたしはあっという間に元の家に戻り、虐待を受け、青山くんに病気のことがバレてしまいます。そんなことは絶対に避けなければいけません。
──あとで青山くんに、どんな言い訳をしましょう。いや、それにしても、こんなに苦しくて死にそうなのに、わたしってば何を考えているのでしょう。
「さぁ、着いたぞ! とりあえずベッドに運んでやるからな、待ってろ……」
わたしがそんなくだらないことを考えている間に、青山くんの家に着きました。青山くんは慣れた手つきで鍵を開けると、一直線に部屋に向かい、背中に背負ったわたしをベッドへ下ろしました。
横になることで、胸の苦しみが多少和らぎましたが、完全に治りはしませんでした。
「……大丈夫、なのか? 本当に死んだりしないだろうな?」
天井が映る視界に、青山くんのつぶらな瞳が入り込みました。真っ直ぐにわたしを気遣う視線は、まるで純粋な子どものようでした。
「……はい。大丈夫です。死ぬだなんて、そんなこと、ドラマや漫画ではあるまいし、あるわけないじゃないですか」
──ごめんなさい。嘘です。わたしは死にます。
「そうか、はぁ。いきなり苦しみだすからどうしたのかと思ったぞ。何だよそれ、持病か?」
「えぇ、その……元から体が弱くて、たまに苦しくなる時があるのです」
「……本当か?」
「本当です。青山くんはわたしの言うことを、信用してくれないのですか?」
「……わかった。大変なんだな、ゆんゆんも」
青山くんは完全には納得していないようですが、それ以上追及はしてきませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!