二章 It`s a piece of cake

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妙に現実感のあるファンタジックな夢を見たせいで、朝はいつもより寝覚めの悪いものでした。 青山くんと共に学校に着いて、授業が始まっても頭がぼんやりとしていました。この状態になってしまえば、もうまともに勉強することはできません。 青山くんのお姉さんは思わせぶりなことを言うし、訳の分からない存在が夢の中に現れるし、不吉の予兆ではないかと思えてしまいます。 そんなわけで、気持ちをリセットするために今日の昼休みは、文字通り休むだけにしようと決めていました。 青山くんとお弁当を食べて、わたしは教室棟の屋上にこっそりと向かいました。もちろん、普段は鍵がかかっていて屋上には入れないのですが、最近何故か鍵がかかっていないことを発見したのです。 右よし。左よし。もう一度右よし。誰も見ていないのを確認してから、屋上に通じる階段を歩いて上ります。錆び付いたドアに力を込めて開けると、ごうっと風が吹き込みました。 「……さて」 知った庭のように屋上の中央まで歩き、青空と睨めっこをするように寝転んで、スマホとイヤホンを取り出しました。 青空を眺めながら聴く音楽は、最高なのです。 「どれを聴きましょう。明るい系も、切ない系もいいですね……」 勘違いされがちですが、わたしはオーケストラなどの高尚な音楽だけではなくて、大衆向けの歌もよく楽しみます。 例えば、凄惨な事件の裏に隠れた悲しい真実を、ベートーベンのバイオリンソナタ第9番、「クロイツェルソナタ」とマッチングさせて描き、2020年最新泣ける映画ランキング一位に輝いた、『ふたりのクロイツェル』の主題歌だって。 「暇なら遊ぼうよ」と、自殺をしようとした少女の前に、幽霊の少女が現れて、ほっこりまったりとした日常を過ごすホラーアニメ、『同居人は見えません!」のオープニング曲だって。 平和な日常の中、突如現れた巨大な物体により、世界を震撼させる事件が巻き起こるという、制作費四億円をかけた前代未聞の大スペクタルSFドラマ、『未来への贈りもの』の挿入歌だって。 ちゃんと聴いているのです。侮らないでもらいたいものです。
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