第四章/神のまにまに

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 (あのさ、死なないでね)  「死にませんよ。むしろやりたいことがたくさん出来たので長生きしてやります」  (うん。長生きしてね。神のまにまに、なんて、もう言わない?)  「はい。僕の人生は僕のものです。紫織子さんが気づかせてくれました。きっと自分で切り拓いてみせます」  (丑尾さんのワイン、私も大好きだよ)  「わいん? わいんとは何ですか?」  (十二月二十五日の夜、きっと丑尾さんは紫織子さんになにかの用事で呼ばれる。それには絶対行きなさい。そして「月がきれいですね」と紫織子さんに言いなさい。夏目漱石の「吾輩は猫である」は読んだ? 丑尾さんは口下手だから言葉につまったらその話をすると盛り上がるかもね。分かった? 仏様の言うことは絶対服従だからね。ハッピーメリークリスマス!)  「もし月が出ていなかったら? あ、あれ? 仏様!?」  私はいじわるをして答えないまま姿を消した。どうでもいいんだ。そんなこと。夏目漱石の「吾輩は猫である」が発表されたのが明治三十八年。だから聡明でお金持ちな紫織子さんなら夏目漱石の名前を出し「月がきれいですね」と丑尾さんに言われたらきっと……。  これくらいなら「歴史を変えた」なんて大それたことにはならないよね? クリスマスツリーになる木は家に着いた時にはまだただの木でしかない。けれど色々飾り付けることで見る人を魅了し、ワクワクと楽しい気分にさせるクリスマスツリーへと変わる。私はその飾り付けをしただけ。そしてちょっとしたクリスマスプレゼントをあげただけだ。  トラおばあちゃんがくれた麦わら帽子、丑尾さんにとても似合っていたよ。大好きだよ。未来のおじいちゃん―― 
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