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母の思い
寒くなってきた。
もうすぐ雪が降るだろうか。
息子と一緒に雪だるまを作った記憶が頭に浮かび、涙が頬を伝う。
小さかった手の温もり。
私の宝物。
1日も忘れた事などない。
何を見てもあなたを思い出す。
でも、会えるのは夢の中だけ。
夢の中のあなたは、いつも小学2年生。
私は小学校の中を走り回り、必死にあなたを探す。
みんなと廊下に並んでいるあなたを見つけた私は、あなたの名前を何度も叫ぶ。
あなたは、いつも困った顔で私を見つめる。
見つめたまま、あなたは動かない。
私は泣きながら、必死にあなたを見失わないようにしている。
夢の中のあなたは大きくならず、いつまでも小学2年生。
体と心を壊した私があなたの手を引いて実家に帰ったのは、あなたが7歳の頃。
夫のモラハラと、義父母の嫌みに耐えていたあの頃。
死にたいという気持ちが溢れて限界だった。
虐待を受けて育った私。
実家から逃げるように結婚したのに、結局、戻れるのは実家しかなかった。
文無しで出戻った私に、母はきつくあたった。
私の顔をのぞき込む、不安げなあなたを見るのが辛かった。
数日後、夫は義父母と共にあなたを迎えにきた。
義父母に呼ばれて車に乗り込むあなたは、困ったような顔で私の方を振り返ったね。
そんなあなたを引き留める事が出来なかった。
心も体も弱くて、情けない母親だった。
本当にごめんね。
後日、あの人は「出ていくなら、お前だけ出ていけ」と言ってきた。
私は満足に動けないほど弱っていて、自分が生きているだけで精一杯。
あなたを連れてきても幸せにしてあげる自信がなかった。
私の気持ちなんかより、あなたの未来の方が大切だもの。
結局、息子を連れ戻す事が出来ないまま、私は籍を抜いた。
あなたと離れた後、会えないのが辛くて下校するあなたを何度も見に行った。
お友達と楽しそうに帰宅しているあなたを見て、寂しさと同時に安心感もあった。
私がいなくても、あなたは幸せに暮らしているのだと。
あれからずっと、あなたの幸せを祈ってきた。
どうか体に気を付けて、元気に暮らしていてほしい。
今でも、幼い男の子が走ってくるとあなたが私に会いに来たんじゃないかと思ってドキッとする。
もうあなたは20歳になって、ずいぶん大きくなっただろうにね。
私の中で時は止まったまま。
ただひたすらに働いて勉強して、何とか調理師免許もとれた。
お給料が出る度、あなたに何か送ってあげたいと思いながらも、あなたを困らせるんじゃないかと考えて思い直した。
さっき親戚から連絡があってね。
こっそり調べてくれたみたい。
「祐二君、◯◯大学に入学したらしい」
良かったね。
本当によく頑張ったね。
お母さんも嬉しい。
今日は、嬉し涙がとまらないよ。
あなたは私の宝物。
私の元に生まれてくれたのに、苦労かけてごめんね。
こんなお母さん、きっと嫌いだよね。
でも私はあなたを産めたことが誇りなんだよ。
本当に本当にありがとう。
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