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第7話
どうやってアパートまで帰ってきたのか、記憶はおぼろげだ。
一人ではないことが、肌で感じる他人の熱でわかる。
ふらふらとまっすぐ進めない体は支えられていて、たどり着いた自室のベッドへ勢いよく倒れ込んだ。
もぞもぞと寝返りをうって横をみてみれば、隣で身を寄せ合うようにくっつく温もりがあった。
「……透さん、寝ちゃ嫌だよ」
明かりをつけない部屋は暗いのに、窓から差し込む月明かりでその存在を知る。
微かな光は相手の瞳を浮きがらせて、俺の心臓をわしづかみにした。
「寝ないよ」
乾いた喉は声を出すのに苦労させて、かすれた音が短く出る。
「よかった。このまま寝てたら、無理やり襲うところだった」
不適な笑みを浮かべたクロは、寝ている俺へさらに近寄って足を絡めた。
首の下を通った細い腕は頭を捉えて、無理やり相手の顔に近づく。
「襲うって、クロが?」
「もちろん。俺ってけっこう大胆なんだ」
もう数センチしかない距離で見つめるクロの瞳は、本当に深く底の知れない色をしていた。
それを閉じた瞼によって見失うと、笑った形を作っていた唇が重なる。
「……っっふ」
最初は優しい触れるだけのキスだったが、こちらが少し調子にのれば相手が本気になる。
強引にも感じる舌の動きに合わせて、相手のざらついた先を強く吸い上げた。
それに答えたつもりなのか、唇を舐めとるようになぞられると、一気に俺の下半身は熱くなった。
「俺にさせて……」
離れた瞬間、クロの手が体の下へと伸びたのがわかる。
ベルトと前は難なく開かれて、一気に下着の中から反応した部分を取り出された。
それをすんなり口に納めるものだから、俺は高ぶったそれをさらに固くするはめになる。
「く、ろ…………っ」
舌の動きは俺を翻弄しているのに、当の本人は自身の後ろをほぐし始めている。
そんな余裕がある相手にいたたまれなくなるが、この快感を失いたくない体はいうことをきかない。
「そろそろいいかも、透さんはそのままでいいから」
最大限まで持ち上がった俺のそれをひと舐めして、クロは仰向けになっている俺の上へ馬乗りになる。
俺は肘をついて上半身だけ起こすが、またがった相手は自身の中へと太くなったものを一気に飲み込んでいた。
「んっ……おっきぃ……」
大きく息を吐きながら、クロは最奥まで受け入れて動き出す。
中は溶けそうなほど熱くて、思わずその快感に腰が動いた。
「……んぁっ……すっ、ごい、きもちいぃ」
ベッドはその動きに合わせてきしんで、クロの煽るような声と肌がぶつかる音が重なる。
「……クロ、まって……っ」
相手は勝手に動きだすと、俺を最高潮まで連れていこうとした。
寸前のところで相手の腕を取り、手前に引いて唇を塞いだ。
酔いは回っているのに、だんだんと体は快楽を求めて覚めていく。
相手のペースにのまれながら、深まる熱をより高めた。
「っん?なに、透さんも、きもちいい……?」
荒い息をしながら、クロはその動きをやめない。
薄い赤に染めた首は細く、そんな無防備な部分へ吸い付きたい衝動にかられる。
ついに俺は限界を感じて、上に乗るクロを反対に押し倒した。
「……っも、むり、我慢できない」
無理やりうつ伏せにさせてから、また一気に中へと自身を押し込む。
奥へ広げるように侵入して、相手の熱さを直に感じた。
後ろから首もとへ唇を押し当てて、そのまま背中を這うようにキスをする。
それに反応したのか、急に締め付けた感覚は俺を興奮させて、クロの腰を掴んで強引に突き上げた。
「あっ、透さっ……んっぁっ!」
高くいやらしい声を出す相手へ集中すれば、その黒髪の間から猫耳をみつける。
こんなときでもそれが可愛いと思えてしまうのだから、やはり俺は相当酔っているに違いない。
のけ反るクロの背中はしなやかで、本当に猫のようだと思った。
なぞるように背筋へ触れれば、白い肌の滑らかさに息を飲む。
「あっ……もう、だめイくっ、いっちゃうっ」
喘ぐクロに夢中になって、限界を迎える相手へさらに激しく攻める。
「……っあっ、だ、めっ!ほんと、っんんっ」
俺をそそらせるその声は抵抗してるのに、欲しがっている体は正直だ。
だめだと言っているにも関わらず、その声色は本心でないとすぐにわかった。
「いいよ、イって……俺もイく、からっ」
「……っんぁっ!」
噛みつきもしない猫の中へ、おもいきり自身の欲望を吐き出した。
どくどくと流れていく感覚は最高で、同じく果ててぐったりとしたクロを見て我に帰る。
俺はこの瞬間から、撫でても歯を立てないかわいい猫を、この安いアパートで飼うことになった。
それがこの黒猫コスプレをしたクロの企みであることは、今の俺には気づくことができない。
放心状態で相手を抱き締めて、この目論見をこれっぽっちも疑わない俺を、クロは同じように抱き返した。
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