過ぎた話

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過ぎた話

 ファミレスの窓際の席に曽我と藪はいた。 店員が注文をメモする準備をしていた。 「ハンバーグセット、米で」 藪はゆっくりと言った。 「ピザとサラダとコーラ」 曽我が言った。店員が繰り返す。 「ハンバーグセット、米で。ピザとコーラとサラダ、以上で間違いないでしょうか」 「間違いないです、間違いたら客の責任にするために確認は必要だな」 曽我が言った。店員は何も言わず去っていく。 「俺はクライムだけが好きなんじゃないぞ」 藪が煙草を咥えながら言った。 「そりゃ俺もだよ、リュックベッソンだって好きだしダニーボイルもジェームズキャメロンもビンセントギャロも好きさ」 「あぁ、バッファロー66か、クリスティーナリッチ」 「そう、バッファロー66みたいなラブストーリーも観る、悪いか?」 「似合わないけど悪くはない」 藪はうなずく。曽我の隣にトランクが置いてある。このトランクをある人物に渡す。それだけの仕事だ。 「藪は?クライム以外の映画」 曽我が言った時注文した物がきた。 ハンバーグセット、米とピザとサラダとコーラ。 「なんでも観る、トゥルーロマンス、ナチュラルボーンキラーズ」 「どっちもタランティーノが関わってんじゃないか」 「まぁな」 藪はそう言って食べ始める。と、しかめ面をした。「不味いじゃないか」と不満そうに食べる。曽我はコーラを飲んで食べ始める。しばらく会話は途切れた。 「12モンキーズ」 突然藪は言った。 「あぁ、テリーギリアム監督のブルースウィリスとブラッドピットのな」 曽我は答える。 「最低のラストだったな」 「あぁ、なんも解決してないラストな、でも好きだな」 「俺も好きだ、タイムスリップの意味あったのかもわからないラストだったけどな」 そしてまた二人とも食べ始める。 店内は空いていた。ほとんどが若者みたいだ。店員は暇そうにしている。店内に流れる音楽はビートルズだった。 二人が食べ終え煙草を燻らせて有意義に過ごしていた。 「ボスが映画館を潰した時は悲しかったなぁ」 曽我は言った。 「俺たちが田宮を殺して、色々あって一週間、借金まみれの古き善き映画館、残念だな」 藪は言った。 「でもあの一件からうちのボスはどうなんだ?って思ったよ」 「俺もだ。映画愛がないボス」 二人とも先日の一件を思い出す。  出入口から男が入ってきた。店員に何かを言って一人で歩いてくる。曽我と藪の席にきた。 「ボスからの預かりものは?」 男が言った。 曽我はトランクを男の足下に移動させる。 「これだ」 藪がトランクを指差す。 「確かに」 男はそう言って去っていく。 「任務終了」 曽我が言った。 「あぁ終了だ」 藪がうなずく。 「過ぎた話だけどな、俺は映画館を救いたかった」 曽我が言った。藪は黙ってうなずく。二人は煙草をもみ消して立ち上がりレジへ向かう。
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