曽我ひとり

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曽我ひとり

 チャックベリーのユーネバーキャンテルが流れる中ツイストを踊る曽我、美女とあの曲に合わせてツイストを踊ってる。  ボスの命令にしては珍しく曽我がボスの女、渡部成美の暇潰しに付き合うという一人での仕事だ。 ツイストが終わると席に向かい合って座る。 「パルプフィクションのユマサーマンとジョントラボルタのシーンみたいだったわ」 渡部成美が言った。 「パルプフィクション好き?」 曽我はぱっと顔を明るくする。 「好き」 そう言って成美は曽我を怪しく色っぽい目で見つめる。曽我は視線を外してコーラを飲む。曽我は注意していた。ちょっと気を緩めると成美の美しさに手を出してしまいそうだ。 「古き善き映画館があと一週間でなくなるの、あの映画館でパルプフィクションを観たのよ」 成美が言った。 「オーナーの借金か」 「そう、あの映画館が潰れたらボスと別れるって言ったけど無理だった」 成美はため息をつく。 「無理だろうね」 曽我はうなずく。あのボスが自分の女に言われたくらいで考えを変えるわけがない。例えそれがどんなに美しくても。 「明日は何かあるの?」 「明日は相棒と借金取り、田宮とか言ったかな、払わなければ殺せってさ」 「可哀想に田宮さん、明日が最期なんだね」 「多分な」 テーブルにはポテトが山盛りで二人でつまんでいた。成美のところにはサラダもあるが手をつけない。 「サラダは嫌い?」 曽我は聞いた。 「後で食べるの、それより暇潰しの相手なんて仕事嫌だね」 「楽さ」 しばらくポテトをつまむのに夢中になる。 「ブルースウィリスの作品で何が好き?」 成美はそう言ってポテトをつまむ。 「選べそうにない」 曽我は苦笑した。 「じゃあ、私がトイレに行っている間に考えておいて」 成美はそう言って立ち上がりトイレの方へ歩いていく。 曽我は悩んだ。少しすると成美は戻った。 「決まった?」 「アクションではラストボーイスカウト、スリーリバーズ、ハドソンホーク。ドラマは断然ノーバディーズフール、後はキッドも捨てがたいな、SF は12モンキーズ、フィフスエレメント、コメディは永遠に美しく、スリラーは薔薇の素顔でどう」 曽我は言った。 「ダイハードやシックスセンスとかアンブレイカブル、アルマゲドンとか有名な作品は入ってないのね」 成美は意外そうな目で見る。 「まぁ悪くはないけど」 曽我は言った。 「ブルースウィリスはいい作品が多いものね」 成美はポテトを口に入れる。 「この後は?」 曽我は聞いた。 成美は微笑む。  ボーリング場だった。 古びた誰もいないボーリング場。 曽我は靴を脱いでボーリング用の靴を履く。  あの悲しげな音楽が鳴ったように思えた。 成美はタップをしながら踊る。 タタタタッタタタタッと心地よいタップが響く。バッファロー66のクリスティーナリッチの再現みたいだ。 「どう?」 「バッファロー66みたいだ」 「バッファロー66にしたの」 二人はそんなやり取りの後ボーリングをする。1ゲーム終えて二人はボーリングをやめた。場内にある証明写真の機械に成美は曽我を連れ込む。小さな椅子に二人は座りいたずらに写真を撮る。 「バッファロー66だ」 曽我は微笑む。 「当たりよ」 成美は曽我を見つめる。狭い空間でいけない空気が漂う。お互いの息づかいが聞こえる。顔が近づく。二人の唇が合わさる。舌を絡めて抱きしめ合い二人は濃厚なキスをした。曽我の頭の中で危険信号がなる。 だけど止められない。 「黙ってればバレないから」 成美は曽我に囁く。
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