映画館の終わり前日

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映画館の終わり前日

 車は真っ直ぐ何もない道を走っていた。 「明日だな」 曽我はハンドルをさばきながら言った。 借金だらけのオーナーの映画館がボスの手の中に入る日だ。 「映画館か、イングロリアルバスターズの映画館のシーンは好きだ」 藪は言った。 「そういえば知ってるか?スティーブンセガールの沈黙の戦艦、あれがダイハード3になるはずだったんだぜ、ジョンマクレーンが活躍するはずだったんだ、ダイハード3の脚本が出来て沈黙の戦艦が先に公開しちまったからダイハード3はあんな変な方にいっちまった、ルールが変わったのは3のせいなんだ」 曽我は力説する。 「クリスマスに孤軍奮闘するジョンマクレーン」 藪は言った。 「そう。3からルール無視の、相棒と共に戦うクリスマス関係なしのジョンマクレーン」 曽我は残念そうに言った。 「だからスティーブンセガールが大嫌いなわけだ」 「あぁ、大嫌いだね沈黙の戦艦から、観たよ、余計にムカついた、これはジョンマクレーンだったのにスティーブンセガール死ねって思ったよ」 「観なきゃいいのに」 藪は顔をしかめる。 曽我は煙草を咥え火をつける。 「まぁ何にしてもおっきな仕事が一つ終わる」 曽我は煙を吐く。 「曽我、先に映画館どうにかしないか?」 藪は言った。 「何だって?」 「ボスにバレないように潰れたようにするんだ、あの映画館を救う、どうだ?」 藪の顔は真面目だった。 「どうするってんだ?」 「例えば燃やしてしまう、ボスの来る前に、それからオーナーと倉田技師と村?村西?違うか村なんとかと別の場所で待ち合わせる、映画館をやれるように金をやる、ってのは?」 「村上な、どうだろうな、上手くいくかわからない」 「でも映画館は救いたい、何故ならシネコンは大嫌いだから」 「同感だがよ、ボスにバレないでってのが、万が一バレたら殺される」 しばらく沈黙が続く。 車はちょうど映画館につく頃だった。 決意せよ。  映画館の前に車が停まる。 曽我と藪は車を降りる。曽我は煙草を棄てる。足でもみ消して歩き出す。 映画館の中に入る。 村上がいた。奥に倉田、オーナーはうろうろ動いていた。 「やぁ諸君、秘密のいい策を持ってきた」 曽我が言った。 村上と倉田とオーナーは曽我を見つめる。 疑惑の混じった目。 「俺たちはシネコンが大嫌いだ、古き善き映画館は大好きだ、映画も大好きだ、だから救いたい」 藪は言った。 「ただ、ボスにはバレないように上手くやらなければならない」 曽我は銃を出して垂れ幕に向けて撃った。 「あんたら次第だ、やり直したいか?」 藪は言った。  煙草に火をつける。深く吸い込む。煙が身体を駆け抜ける、鼻から煙が吐き出される。 ジッポは火がついたまま、床にゆっくりと落ちる。床についた瞬間、その火は炎となって垂れ幕にうつりあっという間に炎が垂れ幕を燃やす。その火はやがて映画館を燃やしていく。 「ボス、大変です、映画館が燃えています」 曽我は携帯電話に向かって叫んだ。 救急車や消防車が集まる。必死の消火活動が行われている。野次馬が集まる。  30分くらいすると落ち着いてきてボスがやってきた。ボスは車から降りる。 灰になった映画館を見ても無表情だ。 「曽我、藪、お前らが来た時には燃えてたのか?」 ボスは静かに言った。 「はい」 「燃やした奴を探せ、放火であってもだ、生かして連れてこい」 「わかりました」 「ここの奴らはどこにいる?」 ボスは煙草を咥えると、車から成美が出てきて火をつける。 「2日くらい前から逃げた用です」 曽我は言った。成美も来ていたのか?不安になる。 「気付けよ、探せ、村上と倉田とオーナーも連れてこい」 ボスは煙草を吸いながら無表情に言った。 「はい」 「全く前日になにしてくれてんだ、全部パァだ書類は灰になった、くそっ、損害が」 ボスは煙草を吸いながら車に乗った。 成美は一瞬曽我を見たが何も言わず運転席に乗った。曽我と藪はため息をついた。  ボスの車さ去っていく。 「今頃あいつらは待ち合わせ場所目指してるな」 曽我は言った。 「銀行寄って全額おろしに行くか」 藪は言った。 「全額?藪俺より給料ないんだな」 曽我は笑って歩き出す。
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