29人が本棚に入れています
本棚に追加
無事社に辿り着き、四つ子はそこでようやく振り返る。
つぐみの妄想とは違い、後ろに続く列はゾンビなどではなく気だるげな顔をした同級生達だった。当然なその事実に安堵して、つぐみはこちらに運ばれてくる棺を受け入れる。
ここで同級生達の仕事は終わり。だがつぐみ達四つ子にはまだ役目が残っている。これから棺を社の中に納め、そのうえ朝までともに過ごさなければならないのだ。
遺体と一晩過ごすだなんて不気味で仕方ないが、多胎児として産まれたからには役目をまっとうしなければならない。それは、まだ幼いころから母親に何度も教えられてきたことだ。もしそのときが来たら、立派に務めを果たしなさいと。
まるで儀式のためだけに産まれてきたのだと言われているようで、あまりいい気はしなかったが。
「あとり兄さん。ほら、早く」
くいなが小声であとりを小突く。最後の挨拶は長男であるあとりがしなくてはいけない。あとりはげんなりとした顔をしていたが、やがて諦めたのか、溜息をついて仰々しく一礼した。
「──それでは皆様、さばえさばえでございます」
あとりの挨拶に続いて、つぐみ達弟も揃って一礼する。頭を上げたときには、もう同級生は解放感に頬を緩めながら帰っていくところだった。
しだいに見えなくなる背中を羨ましく思っていると、ひたきに軽く肩を叩かれる。
「さ、僕らも社に入ろう。棺を納めてやらないと」
「……うん」
つぐみはのろのろと頷いて、棺を持ち上げる兄弟のもとに駆け寄る。
棺に手をかける間際、一瞬だけ振り返れば、遠くでこちらを見詰める闇色の瞳と視線がかち合って。
彼が持つ真っ赤な傘が開かれたのを見て、つぐみは慌てて目をそらすのだった。
最初のコメントを投稿しよう!