ボコイ様

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 外から聞こえてくる蝉の音に、つぐみの意識は泥沼のような夢から浮上した。  横たわったまま、一つ息を吐き出す。じっとりと体を濡らす汗が不快だった。  果たしてそれは本当に汗だけなのかわからずに、つぐみは重たい体を起こす。脳裏にはまだ生々しい夢の記憶と蝉の音が張り付いていて、朝から最悪な気分だった。  またあの悪夢を見た。いつからか繰り返し見るようになった、反吐が出るほど悪趣味な夢。本来人が死ぬ夢は吉夢だなんていうけれど、こんな胸糞悪い光景を見せつけておいて吉もなにもないだろうとつぐみは思う。  しばらくベッドから離れる気にもなれなくて、つぐみは頭の鈍痛に苦しむ。だがそのうち自分を呼ぶ兄の声が近付いてきて、彼は諦めてベッドから這いずり出るのだった。
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