ボコイ様

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 つぐみの家は、一般的な家庭とはだいぶずれている──と思う。  両親は居ない。母は今年の春に亡くなったし、父は変わり者で放浪を繰り返しめったに家に帰ってこない。そんな状態なのでたまに伯母が様子を見に来てくれる以外は、つぐみ達兄弟は四人だけで生活している。  そう、四人。それも普通とはかけ離れているところだろう。  双子ならよくある。三つ子も聞かないわけではない。だが、つぐみ達兄弟は四つ子としてこの世に産まれてしまったのだ。  長男のあとり。次男のひたき。三男のつぐみ。そして四男のくいな。その四人でつぐみ達は育ってきた。四人も居れば当然金はかかるし、子育ても過酷だったことだろう。なにより奇異の目で見られる。  でもこういうときは四人居ると楽だなぁと、つぐみはしっかりと分担された家事の役割表を見て思うのだった。  本日のつぐみの仕事は洗濯。朝食の準備はくいながやってくれたし、ゴミ出しはひたきの仕事だ。食器洗いはあとりの仕事のはずだが、たぶんそれは無理だろう。そう思っていると、案の定よれよれの状態で長男が二階から下りてきた。 「…………おはよう」  ひたきに支えられながらリビングまでやってきたあとりは、まともに目が開いていない状態で挨拶してくる。本当にこの長男は朝に弱い。いい加減朝の当番は外した方がいいかなと思いながら、つぐみは彼を席に座らせてやった。 「兄さん、ほら起きて。朝食はしっかり食べないとだめだよ」  ひたきがあとりの口に無理やり卵焼きを突っ込むのを見ながら、つぐみも食卓につく。隣ではすでに朝食に箸をつけていたくいなが、寝ぼけ中のあとりを見て呆れかえっていた。つぐみは弟が作ってくれた味噌汁をすすり、美味しい、と安堵の息を吐き出す。  普段となにも変わらない日常。あとりの眠たげな顔も、ひたきの甲斐甲斐しさも、くいなが作る味噌汁の味も、すべていつも通りだ。誰一人欠けてない、死んでなんかない。あの夢と違って。  当たり前な事実に心を落ち着かせていると、口内の卵焼きをもごもごと咀嚼していたあとりがろれつの回っていない口調で話しかけてくる。 「そういえばつぐみ、きょうぼくたちのくらすに、てんこうせいがくるらしいぞ」 「転校生?」  つぐみが問い返せば、あとりはもう耐え切れないというようにテーブルに突っ伏し寝息を立てるのだった。
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