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当たり前のことだが葬儀は苦手だ、とつぐみは思う。
普段は見て見ぬふりをしている「人はいつか必ず死ぬ」という事実を突きつけてくるし、たとえほとんど話したことがなかったとしても知人が死ぬというのはダメージが大きい。
そしてなにより、斎場の隅で固まって泣き叫ぶ女達の存在が苦手だった。
わんわんと音が反響するほど泣く女達は、しかし亡くなった阿左美とはなんの関係もない人々だった。この町に古くからある風習で、「泣き女」と呼ばれる存在である。遺族に雇われてやってくる彼女らの仕事は「泣くこと」。故人を悼むために斎場で盛大に泣きじゃくるのだ。
幼少期から当たり前にあったこの光景が異様だと知ったのは、高校生になったばかりのころ。町の外に出ることが少ないつぐみは、その歳になるまで葬儀に泣き女が来るのが珍しいことだとは知らなかったのだ。
一度よその町の常識を知ってしまうともうだめだった。独特の節をつけてオーバーに泣きじゃくる泣き女の存在が恥ずかしくて仕方なくなってしまった。
本当にこの泣き声は嫌になる。それも、よりによってよそから来た幽灯の前で泣くだなんて。
幽灯の目に泣き女の存在はどう映るだろうか。住職の厳粛な読経もうわの空で聞きながら、つぐみは偶然隣の席に座った幽灯を盗み見る。しかし、予想に反して幽灯は平然とした顔で泣き女の慟哭を聞き流していた。
泣き女達のことを親族と勘違いしているのだろうか。そんなことを思っていると、漆黒の目がこちらを向きドキリとする。
「この町では泣き女を使うんだな」
幽灯の囁きに、知ってるの、とつぐみは声を上ずらせる。外から来た人間で泣き女を知っている人には初めて会った。つぐみが驚いていると、幽灯は相変わらずなにを考えているのかわからない顔で答える。
「泣き女、みたいな人が身内に居るんだ。だからそういう職業があるのはよく知ってる」
「そ、そうなんだ……」
つぐみが呟いて、また沈黙が訪れる。幽灯とまともに会話が成立したのはあれ以来初めてのことだった。つぐみは少し迷ってから、もう少しだけと小声で会話を続ける。
「鬼塚君も災難だね。転校早々葬儀に出なくちゃいけないなんて」
本来阿左美と面識のない幽灯には関係ない話なのだが、「そういう決まり」なのだから仕方がない。このあとの儀式のことを考えると幽灯にも葬儀に参加してもらわなければいけなかったのだ。
いいや幽灯だけではない、この斎場には全員の同級生が訪れていた。阿左美と親しかった者、逆に一度も話したことがない者まで。同じ学校に通う同い年というだけで、彼らはこの葬儀に呼ばれた。すべては、このあとに行われる儀式のために。
「火葬はしないと聞いた。なにかするのか」
つぐみの同情を無視して、幽灯は素っ気なく訊いてくる。まだ誰も彼に儀式のことを教えていないのだろう。僕もそんなに詳しくはないんだけど、と前置きをしてつぐみは教えてやる。
「これから儀式をするんだ。彼みたいに特殊な亡くなり方をした人を弔うときは、必ずそうしなくちゃいけないんだよ」
「儀式?」
「故人と繋がりのあった人達で列を作って、町を練り歩くんだ。それからボコイ様の社に遺体を納めるんだよ」
「ボコイ様、というのは」
「この町で信仰している神様みたいなものかな。赤ん坊の神様だって聞いたことがある。ボコイ様は生まれ変わりの加護を持っているから、どうか無事に転生して幸せな人生を送りますように、と願いをこめるんだよ」
「へえ、そりゃ」
たいしたカミサマだな、という皮肉めいた言葉とともに斎場が静まり返る。
どうやら読経が終わったようだ。あれほど泣き叫んでいた泣き女達もまた、役目は終わったとばかりに余韻を残して嗚咽をひそめている。葬儀も、いよいよ閉会を迎えようとしているのだ。
「つぐみ兄さん。そろそろ準備しないと」
幽灯とは反対側の席からくいなが耳打ちしてくる。つぐみはわかってると返して、緊張の面持ちで立ち上がるのだった。
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