クリークヴァルトの秘密

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クリークヴァルトの秘密

 スパイ、という言葉は遡るとラテン語のspecereに行き着く。見る、という意味だという。  更に遡ると、インド・ヨーロッパ祖語で「スペク」というような発音が、見るということに結びついていたらしい。ここからは、英語のinspektとかspectacle、respcet、suspectといった言葉も生まれている。インド・ヨーロッパ祖語という考え方はかなり昔からあったけれど、ドイツ語の文法を研究していたヤーコプ・グリムという人が100年ちょっと前に、「グリムの法則」というのを発見して、それから研究が大きく進んだらしい。  spyがいま使われているような意味で、つまり、対立する勢力の秘密を探るというようなことを指して使われるようになったのは、13世紀のことだった。  もちろん、敵の秘密を知ろうという努力は、たぶん、人間が人間と戦うようになってからずっと存在し続けただろう。王や貴族や聖職者の手紙をそっと盗み見る。あるいは、すり替える。正体を隠して敵の国に入り込み、見聞きしたことを持ち帰る。そんなことは、やって当たり前だ。  だが、スパイが、この国はドイツ語を使っているからスピオン、またはスピオニンというのだが、これが一大産業となったのは、ここ50年ほどのことだ。なにしろ、クリークヴァルト公国にまで、スピオンやスピオニンで稼ぐ人間が現れたのだから。
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