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「と、飛び下りる?」
捨扇が顔を引き攣らせる。秋鹿はあわててかぶりを振る。
「あ、いえ、清水の舞台から飛び下りるほどの勇気を出して、出場されたんですよね。怖がりなだけじゃないです。十分間、しっかりあの場にいてくれたじゃないですか。臆病なだけじゃないです。捨扇さんには、勇気も、あります」
「それは……君が後ろで励ましてくれたから……」
あの舞台の上で、三分経ったことに安心し、五分経ったことに、心強くなった。あともう五分、頑張れるような気がした。
「ありがとう……」
捨扇は、思い出した。遠い昔、弱虫だ意気地なしだとからかわれ、悔しくなって川へ飛び込んだ子どものことを。
いきなり高い崖の上から、飛び込んではいけなかった。低い岩場から徐々に慣らして、やがて憧れの崖に挑戦する。皆はじめから平気で飛び込んできた訳じゃない。段階を踏み、少しずつ躰と心を鍛えてきた成果なのだ。
勇気と、無謀は、違う。
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