920人が本棚に入れています
本棚に追加
/638ページ
現在、あやかしの世界は、とても不安定な状態にある。それは新しい安定の前の、必要な不安定だった。コトワリを変えると云うことは、これまで固く張ってきた根っこを揺るがすと云うことなのだ。小競り合いも起きる。多少の衝突は避けられない。だがそれを無理に押さえつけるのはいけない。遺恨を残したままでは、新しい根は健康に育たない。だからお前が間を取り持って、双方が納得するようにしてほしい。
とても難儀な務めだが辛抱してくれと、頭領に頭を下げられ頼まれては仕方無い。だがとても松虫一人でこなせる仕事ではなかった。忙殺、と云う単語が頭に泛かぶ。まさに忙しさに殺されそうだった。
松虫以外にこうした役目につけるのは、玄帝配下では古暦くらいだろう。しかしあの科学者きどりの墨の精は、面倒ごとを厭がって雲隠れしてしまった……相変わらず自分勝手な奴だ。けれどももしかしたら、同じように姿を消した凍土と関わりがあるのかも識れない。神楽坊は全てのあやかしと、あやかしの国を消滅させようとした凍土を、不問に附すことと決めたが、その意向についても不満を抱くものは大勢いる。松虫はその者たちの云い分にも耳を傾けなければならない。
最初のコメントを投稿しよう!