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秋鹿は捨扇に顔を振り向ける。「捨扇さんも、一緒に行きませんか、」
捨扇はふるえながら、頷いた。
「人間の国のおいしいもの、愉しいこと……自分に教えてほしい。ちょっとずつ、頼む……」
「はい。ちょっとずつ、ですね」
秋鹿が答えると、突如、盛大な音が鳴り響いた。悲鳴と共に、捨扇は秋鹿にすがりつく。
「何だ、このもの凄い音は……砲弾か? お、おそろしい……」
「花火ですよ。ほら、あっちで」
秋鹿は上を指差す。捨扇は長く垂れた髪の間から、そうっと空を見る。そして。
怖がって目をつむっていては見ることの出来ない美しいものが、この世界には在ると識る。
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*『臆病者のかき氷』おしまい。次のお話に続きます*
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