再会……

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再会……

「ゴメンね……どうしても帰らなきゃいけないんだ。私だって純次と一緒にいたいよ。だけど無理だよ。家族を残して私だけ幸せになるなんてできない!」 「わかったよ聡子の気持ちわかったよ!だけどなんでお前だけ犠牲にならなきゃいけないんだ!こんな事ってあるかよ!」  純次は思わず聡子を抱きしめた。これっきりなんてあるだろうか、どうして僕たちは別れなきゃいけないのだろう。聡子の美しい顔の涙を心から拭ってあげられるのは僕しかいないのに。  聡子もこれっきりと純次を抱きしめてそして純次の顔を見た。いつものようにキリッとした男らしい顔がそこにあった。このまま泣かないでね。泣いたら私あなたから離れられなくなる。純次ありがとう。こんなに人を愛することはもうないわ。  だけど二人はいつまで経っても離れなかった。離れる事が出来なかった。しかし時はきた。純次が聡子にキスしようとした瞬間である。聡子は純次の腕を振り解き涙ながらにこう言ったのだ。 「ゴメンね……もう行かなきゃ!純次今までありがとう」  聡子は純次に背を向けて歩いていく。すると後ろから純次が涙声でこう叫んだ。 「聡子!俺の電話番号忘れるんじゃねえぞ!なんかあったらいつでもかけてきていいんだからな!」  それから25年経った。聡子は今の夫と結婚し二人の子供を産んだ。子供は成長し長男は社会人に、次男は大学生になっていた。子供も手がかからなくなると夫婦二人で過ごす時間が急に多くなった。多くなったと言っても、もともと親の都合で勝手に決められた結婚だっあので聡子はこの夫に対して愛情など決して抱いていなかった。子供二人でさえ数少ない夫婦のまぐわいの中で偶然当たったようなものであった。その苦痛のまぐわいの中で目を閉じて思い浮かべていたのはあの純次の事である。聡子は純次に抱かれる自分を想像して夫との苦痛の時間を乗り越えてきた。  聡子は最近純次の事をよく思い浮かべる。父親の家業が倒産し、家族を助けようと純次と別れ、資産家の息子であった今の夫と結婚したが、その間も聡子は純次の事を一度も忘れた事はなかった。目を閉じればあの時の純次を今も思い出す。純次は今頃どうしているのだろう。今ここに夫といる時でさえ純次の事を思い浮かべてしまう。純次、出来るならもう一度貴方に逢いたい……。  ある日のことであった。突然聡子のスマホに彼女が登録しているSNSからのフレンド通知があった。見てみると『JUN』というニックネームであった。またどっかのバカがID検索したのかとブロックして削除しようとにSNSを開いた時である。聡子はメッセージの中に懐かしい、しかし一度として忘れなかった名前を見たのであった。メッセージにはこう書かれていた。 『お久しぶりです。聡子さんお元気ですか?○○純次です。貴女と過ごした時間は今も忘れない。今日久しぶりに逢いませんか?よかったらメッセージください。電話でもいいです。TEL○○○-○○○○-○○○○』  聡子は遠く離れた過去からのメッセージに動揺したのだった。過去から純次が突然蘇ってきたのだった。間違いないこれはあの純次だった。疑いようもない。電話番号まで完全に一致している。純次……あれからどうしていたのだろう。私は結婚して今じゃただのおばちゃんになっちゃったけど純次はどうなっているのかな。彼もただのおじちゃん。もしかしたらハゲてるのかもしれない。  彼女は純次へメッセージを送るのを何度も躊躇った。しかし純次にもう一度逢いたいという想いが躊躇いを簡単に乗り越えてしまった。純次がハゲていても構わない。どうせ私もただのおばちゃんなんだし。聡子は純次にメッセージを送った。 『聡子です。こちらこそお久しぶりです!私も純次さんに逢いたいです♡♥♡!』  するとすぐさまメッセージが返ってきた。 『僕も逢いたいです!ハチ公前でどうでしょうか?』  聡子は了解と即答した。  久しぶりの渋谷は相変わらず人混みが酷かった。聡子はこれでもかこれでもかと自分の顔にメイクをベシャベシャ塗り純次とホテルに行くためにとっておきのボディコンスーツを着て出かけたのであった。純次、これ覚えてるかしら……。  聡子はハチ公前で純次を待っていたがいつまで経ってもそれらしき人は現れなかった。彼女と同じように誰かを待っている人はいる。しかしほとんど学生ばかりであった。  待ち合わせの学生達の下に相手がやってきて次々と去っていく。みんな学生さんだ。私も学生の頃、純次といつもここで待ってたなと聡子は昔を思い出して笑った。  ふと隣を見るとそこにスーツを着た中年の男性が立っていた。聡子が男を見ていると男は「やや、これは失礼!」と少し離れていった。聡子は男に見覚えがあるような気がした。まさかこの男が!と声をかけようとした時だった。男から話しかけてきたのである。 「あの、待ち合わせですかな?」  聡子が緊張してうなずくと男は話を続けた。 「いや、私も待ち合わせをしておりまして。今日やっとその人に会えるんですな。長い間待っていたんですよ!本当に長かった!こういう事はいけないと自分を抑えていたんですがもう止まらないんです!こんな気持ち分かりますか?」 「わかります、私!」 「ところであなた、えらく懐かしい格好をしてらっしゃいますな」  聡子は目の前の小太りの男を目の開くほど見たのだった。見れば見るほどあの人に似てくる。あなたやっぱりただのおじちゃんになっちゃったね。昔の面影なんてほとんどないじゃない!でも私だっておばちゃんなんだからおあいこね。聡子は彼の名前を言おうと口を開いた。 「純……」 「パパ、お久しぶりぃ〜!待ったぁ〜!長く待たせてゴメンねぇ〜!」 「待ったよ!長く待った!やっとまた会えたんだね!」 「でもパパってぇ〜!なんでいつもあんなクソ丁寧なメッセ送るわけぇ〜!」 「だって君たちみたいな若いものの真似なんかできないよ!……ハッ!いやぁー離れていた娘に久しぶりに会えるなんてパパ感激だなぁ!」 「パパ何言ってるの?早くホテル入ってチャチャっと一発済ませようよ!」 「聡子!何を言ってるんだ!今日は親子水入らずでホテルに泊まるんだぞ!誤解を招く事を言うんじゃない!この方が誤解するじゃないか!」  聡子は目の前の光景に呆然としていた。目の前の男はただの別人だったようだ。彼女は目の前で起こっている出来事を見て自分の勘違いを恥ずかしく思った。こんなクズみたい男を純次と勘違いするなんて……彼女は純次に謝りたくなった。すると若い女が聡子を指差して笑ったのである。 「ギャハハハ!見てよパパ!マジヤバイよこのババア!めっちゃキモい格好してる!」 「バカ!この人に失礼じゃないか!こういう格好昔はすごく流行ったんだぞ!俺が昔付き合ってた女も大事な時はいつもこんな格好してたんだ!……いや、すみませんね!うちの娘が礼儀知らずで」 「何が娘だよ!娘とエッチして金払う親がどこにいるんだよ!」 「バカっ!パパはそういう冗談は嫌いだっていつも言ってるだろ!」  目の前から薄汚い自称親子がきえていく。聡子は彼らの酷い悪口にすっかり打ちのめされていた。そしてこなければよかったと思った。純次に会うために来てきたボディコンがこんなにバカにされるなんて……。しかし聡子はそれでも純次が来るという一分の可能性を信じて終電までその場で待っていた。  結局純次は来なかった。聡子は通行人にそのボディコン姿を笑われながら終電近くまで待った。その間何度もSNSてメッセージを送ったが何も返ってこなかった。  彼女は帰りの電車の中でこう思っていた。やっぱり私の姿見て帰ったのだと聡子は思った。現実なんてそんなものなのだろう。身に染みてわかっているはずなのに夢なんか見たりしてバカだった。聡子はもう純次のことなど忘れようと思い、とりあえずスマホから純次の全てを消そうとスマホを手に取った瞬間、そこにJUNこと純次からの新着通知があることに気づいたのであった。  通知にはこうある。 『純次です。今日は申し訳ありませんでした。仕事が重なり……』  聡子は胸の高まりを抑えることが出来なかった。そうなのね!今日は仕事の都合でこられなかったのね!純次は今度はいつ会えるの?私はいつでもOKよ!このボディコンスーツでいつでもハチ公前で待ってるわ!と彼女は飛び出そうな心臓を押さえながらSNSを開き純次のメッセージの続きを読んだ。 『純次です。今日は申し訳ありませんでした。仕事が重なりさらに酒の飲み過ぎで本来別の方に送るはずのメッセージをあなたに送ってしまった事をまずお詫び申し上げます。ハチ公前で派手なボディコンスーツを着ていた方はあなただったのでしょうか。そんなにまでしてご足労いただいたのにこんな事になって申し訳ありません。 こちらとしても別れた時点であなたの電話番号を消すべきだったのですが、あなたへの未練もあり、そしてそれからあなたと同名の女性と何人か付き合っているうちに誰が誰だか分からなくなってしまって結局あなたの電話番号を消せずじまいだったのです。 それで、あまりにも不躾なお願いなのですが、先程あなたが見た事を内密にしていただきたいのです。私も勤務先では責任のある立場となっており家庭もありますので、今回の事を口外されると出世に響くどころか今まで築き上げてきたものが全て崩壊してしまいます。ですから重ねて申し上げますが今回の事は何卒ご内密に申し上げます。お約束していただけるのなら相応のお礼は致します。』  ……  ……  ……  ……  ……  ……  ……  すべてに裏切られた聡子のとるべき行動は一つだった。彼女はまずこの全文のスクショを押さえた。そしてSNSに通報し、最後に交番に駆け込み児童買春で元恋人の純次を通報したのだった。  完
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