Destination of red thread

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「まあ、いいでしょう。お陰でいいデータも手に入ったことだし」  瓦礫を踏みながら部屋の中に侵入してきたのは、白いフードを目深に被った男。 「それにしても。久しぶりの挨拶が悲鳴とは随分と嫌われたものですね」  ひとしきり笑うと、男の口が横に広がった。 「あんたは……」「すずちゃんと直人と一緒にいた……!」 「そうです。お久しぶりです。松嶋すずさんに金木瑠那さん、そして齋藤美歌さん。相変わらず甘い戦いをーー」 「挨拶なんてどうでもいいだろ! さっさと負けたあの女殺そうぜ!!」  壁が蹴破られる。眩い光を背に出てきたのは、プロレスラーのように筋骨隆々の男。 「まあ、落ち着けよ。せっかく宣戦布告も兼ねて全員で来たんだからよ。きっちり挨拶した方がいいよ?」  空いた穴から続々とプレイヤーが現れる。黒のライダースジャケットにブカブカのサマーニット、パープルのシースルーブラウスと装いは様々だが、共通しているのは戦い慣れしているそのオーラだ。 「俺のことは知ってるから自己紹介する必要はないよね。まあ、でも今は立場が違うから一応自己紹介しておこうかな」  最後に姿を現したミルクティー色の髪を靡かせたプレイヤーは、何度も剣を交えた物部大地だ。 「立場が違うってどういうこと? あんたは渚の仲間なんじゃ……」  繋いでいた渚の手が驚くぐらいに震えている。顔面蒼白の親友の顔がそこにはあった。 「正確に言うと仲間だった(・・・)だね。僕らは全員渚ギルドの一員だった。だけど、頭がこんな簡単に負けてしまうならね」  誰かが笑い声を上げた。一番背の高いライダースジャケットを着たプレイヤーがお腹を抱えて笑っている。つられて壁を蹴破った男が肩を揺すって笑った。 「からかうなよ物部。最初から仲間なわけないだろ。こんなの情緒が不安定過ぎて信頼できないぜ」 「どういうこと?」  瑠那が杖を水平に向けた。ピリッとした怒りが離れていても伝わってくる。 「つまり、渚ギルドは幻想だったってことです。そんなギルドは存在しない。でも、勘違いしないでほしいのは、価値がなかったわけではありません。私たちの隠れ蓑としての機能は果たしてくれましたし、半ば勢力図を固定化することができました」  何を言っているのだろう、と美歌は思った。いくら頭を巡らせてみても、薄っぺらい言葉と笑顔の裏にある真意を見つけることができない。音が全く鳴らないのだ。 「きょとんとした顔をしてますね、齋藤さん。何事も直観で捉えてしまう貴方には、難しいかもしれません。ですが、このマネーダンジョンは一種のゲームなんですよ。ゲームを有利に進めるためには何が必要か。それは、お金です」  フードの男は俳優がするように大げさに身振り手振りを交えながら力説する。 「お金さえあればなんでも買える。スキルも装備も全てが。お金を持ち、強いスキルを高い装備を持っている者がこのゲームの勝者になれるんです。そうでしょう? 世界という境界を超えることのできる糸の力は、弱小ギルドを粉砕した。正しいお金の使い方をした者が、他のプレイヤーを圧倒したのです」  大きな溜め息を吐き出すと、フードの男ははっきりとわかるくらいに肩を落とした。 「だけど、最後の最後に負けてしまった。せっかく頂点に立てるところだったのに。いいですか? お金をどう使うかがこのゲームの要。だから私は教えてあげた。松嶋さん。貴方には金木さんを倒せる方策を。車田さんには齋藤さんに復讐を果たすための手段を。そして、山本渚さん、貴方には世界を統べるための力を教えてあげました。それなのに負けた。無様に仮面の下まで曝け出して、ね」 「! あんた、それが仲間に掛ける言葉なの!?」 「だから仲間じゃないんですよ。利用価値があればまだ仲間でいられたかもしれないですがね。負けた時点でもう終わりです。ゲームなんですから、効率的にいかないと」 「……効率的」  何度も聞いた言葉だが、聞く度にどこか、心のどこかが荒んでいくのを美歌は実感していた。車椅子を緩ゆると進ませて渚の横へと向かう。 「おや? 庇うというのですか? 今まで敵だった相手を。齋藤さん、貴方だって糸に翻弄されたはずです。傷だって受けた。守る理由なんてどこにも見当たらないと思いますが」 「理由ならあるわよ」  ピンクの杖が目の前で踊った。トン、と床を突くと頼もしい瑠那の声が響く。 「浦高のメンバーだった。シンプルだけど理屈抜きの強い理由が」  男は、フードの上から人差し指で頭を掻くと、服の下から銀色に光るナイフを取り出した。 「なるほど。理解はしかねますが、わかります。人はそれぞれですからね。ですがーー」  袖からチラリと見える手首が上下に動く。空中に置かれたナイフは、爆発的に加速してターゲットへと突き進む。 「それで負けてもくだらない文句は言わないでください」  反応することはできなかった。気づけばもう瞳の中に吸い込まれるように、ナイフが突き立てられていた。 「やらせないよ!」  突如現れたシルバーブルーの刀がナイフを弾いた。  
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