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空間転移して現れたのは月守。一回転すると、美歌と瑠那の前に立ち、刀を上段から華麗に振り下ろした。
「さすが、動きが速いですね」
後ろへ逃げたフードの男の手に新しいナイフが移動した。
「私だけじゃないよ!!」
月守の両隣の空間に歪みが生まれる。歪みは数珠繋ぎに広がっていき、次第に美歌を中心に円になっていく。
「転送アプリ。なるほど、貴方がたも持っているんでしたね」
次々とプレイヤーが姿を現し、静寂だったはずの小さな部屋は人で埋め尽くされた。頬に当たる熱気が美歌の体を火照らせる。
「これだけの人数相手に勝てるのかい?」
月守は、刀の切っ先をフードの男に、その後ろに控える面々に向けた。
「てめぇ……! そんな細腕でやろうってのか? 俺が握り潰してやるよ!」
吠えたのはプロレスラー体型の男だ。今にもはち切れそうな白シャツの後ろから大振りの刀が引き抜かれる。
「捻り潰すの間違いじゃないかい? 刀は潰すんじゃなくて斬るもんだろ?」
「うるせぇ! てめぇ、いい加減にーー」
「やめましょう」
急な制止が入り込み、怒りに任せて振り上げようとした刀は行き場をなくして壁にもう一度穴を開けた。
「なんでだよ! 雑魚がどんだけ集まろうと、俺等の敵じゃねぇ! 俺の刀技を使えばーー」
誰もが言葉を失った。首が、吹き飛んだからだ。正確に言えば瞬時に飛び出たナイフが分厚い首を切り落とし、その勢いで胴体から離れた首が宙を待った。
「このように、殺すことは造作もないことです。ですが、ここは一旦引きましょう。まだ我々の手の内を明かす段階ではない。行きますよ」
そう、淡々と述べるとフードの男は真っ白なエレクトフォンを取り出した。
「ちょ、ちょっと待てよ……仲間だろうが!」
月守の横にいた有門が恐怖と怒りが入り交じったような声を上げる。直人もいつでも斬り込めるように柄に手を掛ける。2人を止めたのは、あくまでも冷静なリーダーの手だった。
「落ち着け」
ポンポンと2人の肩を叩く。すでに刀は鞘へと戻していた。
「手を引いてくれるなら有り難い。こっちは戦いどころじゃないからな」
首の動きで示す先にいるのは渚。美歌が振り向けば、すずの腕の中で顔面蒼白になって過呼吸を繰り返していた。
「渚さん!」
届かないとわかっていても思わず手を伸ばす。差し出された渚の手は、美歌の指に届く前に力を失い枯木のように落ちていった。
「それでは、退散させていただきますよ。また会えるときを楽しみにしています」
フードの男たちが消えていくのと同じく、気を失った渚の体も消えていく。周りの喧騒の中で、すずの金切り声が何度も親友の名を呼んでいた。
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