The forth dungeon

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 ドアの隙間から音が漏れ出た。両手で押し開くタイプの重い半透明なドアの先では、十数人ほどの子どもたちがそれぞれ個性的なレッスン着に身を包んで、音に合わせて腕を脚を自在に振るい、舞いを踊っていた。蛍光灯に照らされた大型ミラーが写し出す滴る汗が、張り付く笑顔がキラキラと眩しい。 『美歌ちゃん、やっぱりーー』 『いいんです、もう』  遮るように言葉を挟んだ。なるべく、明るく聞こえるように。ゆっくりと半円をつくってくるりと回ると、強張っているその顔を見上げる。飛びきりの笑顔を作って。 『先生が気にするようなことじゃないです。もう、しょうがないじゃないですか』  気丈に構えたはずの声が微妙に触れていた。隠したはずの内なる声を代弁するようにーー。  薄いまぶたが開いた先には、天井があった。最初に思ったことは、いつもよりも近いということ。次にはなぜか橙色に塗りたくられているということ。そして、違和感に突き動かされるように上体を上げた。 「美歌! 美歌ちゃん!!」  記憶を辿るよりも先に飛び込んできたのは、柔らかい感触とふわりと漂うローズの香り。最近はいつも側にあったそれらから、顔を確認せずとも胸の中へ抱きついてきたのが瑠那だとすぐにわかった。 「瑠那さん……」  抵抗することなく腕をだらんと下げたまま、美歌は辺りをうかがった。明らかに自分の部屋ではなさそう。かといって他に見慣れた場所は知らない。 「ここは……?」  問いかけを口にする。と同時に鳴り終わったオルゴールのネジをもう一度回すように、記憶を甦らせていく。確か、瑠那さんと一緒にランチを食べて、握手会のーー。  そこまで頭を巡らせたところで、ズキッと後頭部が痛んだ。 (そうだ、私ーー) 「気を失って……いたんですか?」 「そうだよ!」  瑠那のブルーの瞳が訴えるように見つめてくる。よくよく見れば、水に浸した宝石のように濡れているのが確認できる。 「ほぼ半日! 会場から救急車で運ばれて、本当に心配」  救急車、ということはここは病院? でも、空気感が何か違う。病院特有のどこか厳かな音が周囲の壁のどこからも響いてはこなかった。それどころか、むしろどこかから陽気なざわめきも聞こえてくる。 (ここはーー?) 「ここは、ダンジョンだ」  答えたのは別の声だった。ギシッギシッと一定間隔で揺れる音とともに現れたその声は、低く安心感が与えられるような野太い声だった。 「有門……さん?」 「ひと月ぶりだな、美歌」  はにかむような笑顔を向けると、有門は短く切り揃えた黒髪を人差し指でポリポリとかきながら、最後の階段を上がった。 「瑠那、お前もう離してやれ。状況を説明しないと」  美歌の胸元から、色白の小さな顔が離れていく。 「そんなことより、美歌ちゃんの話を聞きたい。あんただって知ってるでしょ? 何が起きたのか」 「ああ。ネットでトップニュースになってたからね。SNSだって炎上中だ。まあ、今、このダンジョンでは止まっているけど」  美歌の顔が瑠那と浅黒い顔の有門を交互に行ったりきたりする。 「えっと……」 (いったい、なにが?) 「握手会は中止になったんだ。美歌が病院に運ばれたってことで、今、ファンが怒り狂ってる」 「……えっ……握手会が、中止?」
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