永塚 栞里

1/1
前へ
/44ページ
次へ

永塚 栞里

“驚くほどいい天気になって良かった! 大樹の思いが届いたかな?ふふ。 やっぱり、仕事帰りに寄ってみよう。” そんなことを考えながら仕事をしていたら、 栞里が笑顔で喋りかけてきた。 「茉莉ちゃん!めっちゃいい天気だね! 息子君、やっと河原探索行けるねぇ!!」 「ホントだよー!やっとだね。この前さぁ、 担任とも課外授業の話、連絡ノートで してたのよ。」 「あは。連絡ノートで?ウケる!担任って、 前に話してくれたイケメンの先生だっけ?」 栞里はケラケラ笑いながら話す。 「ふふふ。そうそう!イケメン。」 「ちょっとぉ!イケメンの担任なんて、 羨ましいんだけどぉ。連絡ノートのやり取り 聞きたいなぁ!お昼休憩、今日は一緒だね? ゆっくり聞かせてもらうからねー!ふふ。」 「えー!?そんなたいした話じゃないよー?」 そんな話をしていたら、お客様が入ってきた。 「いらっしゃいませ~!」 私と栞里の声がハモった。 ──永塚 栞里(ながつか しおり)── 同期入社でアパレルのパートとして働く栞里。 私と同い年で、子供も同い年の男の子がいる。 見た目は、肩まである少し明るい茶色の ゆるふわウェーブの髪に、くりっとした パッチリな目で可愛い顔立ちだが、 背はスラッとしている。年齢より若く見える。 人当たりが良くすごくアパレル向きだと思う。 いつもポジティブで裏表がなく、明るくて ノリがいい。 考え方が私と似ていて、一緒にいても気楽で、 楽しい。 気が合うから、仕事中もついついお喋りが 弾んでしまう。 「永塚さん、相澤さん、キリがついたら、 お昼休憩行ってきていいですよー。」 一旦、お客様の波も落ち着いたところで、 店長から声を掛けられた。 「はぁーい!」 またしても、栞里と返事がハモった。 「茉莉ちゃん、行けそう?」 「うん!今終わったから。」 「じゃ、行こっか!」 シフト表に休憩に出る時間を記入して、 休憩室へ向かった。 「で、さっきの話!詳しく聞かせてもらうよ!」 「ホントにたいした話じゃないよ?ははは。」 「イケメン先生は何と書いてきたの?その前に 茉莉ちゃんが何て書いたか聞かなきゃ!」 「ふふふ。この前さぁ、てるてる坊主の写真 見せたじゃん?てるてる坊主が群れになる 経緯とウチの子のしょんぼり具合を書いたの。 それから、先生が子供達に話してくれた 『雨降りの過ごし方』についても。」 「うんうん!…ん?『雨降りの過ごし方』?」 「雨降りは憂鬱になっちゃうけど考え方や 捉え方ひとつで楽しくなるんだよってお話。 そして、子供達を納得させてしまうって、 すごくない?」 「へぇぇ!何ちゅう出来た教師なの!」 「ね。ふふふ。」 「で!?返事は?」 栞里はワクワクしながら更に質問してくる。 「でね。先生からは『残念がる子供達を見ると 何とかしてあげたくなる』って。それから、 てるてる坊主の写真ぜひみたいって。ふふ。 あとは、『いつもあたたかいお言葉を ありがとうございます』ってお礼が 書いてあった。お礼言われるようなことは 何もしてないんだけどねぇ。 ね?大したことじゃないでしょ?」 話を聞いていた栞里がニヤッとして私の顔を 覗き込む。 「…茉莉ちゃん、イケメン先生に惚れてる?」 栞里の不意な質問に私はドキッとした。 「え!?…そ、そんなことないよぉ…。」 「うーそーだー!今焦ったでしょ、あはは!」 「むー!」 「ほらほら、白状しちゃいなよー!」 ニヒヒッと笑いながら私をつつく。 「んもぉー!んふふふ!うん。結構好きやよ。 でも何でバレたん? 」 「だってさぁ、茉莉ちゃん、先生の話する時、 すごく楽しそうやもん。バレバレやよー。 茉莉ちゃん素直すぎやし。あはは! それに連絡ノートでそんな話書かないもん。 しかも、相手もまんざらじゃないんやない?」 「えー!?それはないってぇ!担任だよー?」 大袈裟に手を横に振る。 栞里は私の手を両手でガシッと握って、 「わかんないよー?禁断のあ・い!ぷはは!」 「栞里ちゃん!ふざけすぎ~!あはは!」 「でもさ、全くなんとも思ってなかったら、 事務的な返事しかしないんじゃない? 教師ってみんなそんな感じやない? でも、イケメン先生は、事務的じゃない返事を 書いてくれるんでしょ? だからさぁ、そのイケメン先生、茉莉ちゃんに 絶対、何かしらの感情があるってぇ!」 「そ、そうかなぁ~?」 「そうだよー!わかんないけど!あはは!」 根拠のない栞里の自信ありげな言葉に笑いながら “栞里ちゃんの言う通りだったら すごく嬉しいのになぁ…。” と少し期待してしまう私がいた。 「ねぇ、茉莉ちゃん!また、イケメン先生の話、 聞かせてね!」 「えー?どうしよっかなぁ。栞里ちゃん、 からかうもーん。ぷふふ。」 「えー!?茉莉ちゃーん!あはは!」 休憩室から出て、お店に戻りながら話す私の腕に 栞里は自分の腕をからませてきた。 「あー、でもホント羨ましい!私もトキメキが 欲しいよぉ~!!そんなにイケメンな先生、 見てみたいなぁ!あはは!」 「ふふふ。トキメキは大事よー!」 「旦那さんとどっちがイケメン?ぷふふ。」 「んー?どっちもイケメン!あはは!」 「何だ?ノロケかぁー?」 「でもさ、栞里ちゃん。さっき、先生好きって 言ったけど、恋愛感情とはなーんか違う気が するんだよね…。これ浮気になるんかな?」 「うーーーん。恋愛感情じゃないけど好き? 憧れ的な感じの好きってこと? だったら、浮気ではないんじゃない? だって、略奪したいとかじゃないんでしょ? ただ、想って妄想してるだけでしょ?」 「り、略奪!?そんなこと考えてないよー! ただ、見れればいい。それだけ。うーん。 憧れかぁ…。なるほど!そうかも。 頼れるお兄ちゃん的な?そっちの表現のが しっくりくるかも!」 「あはは!お兄ちゃん!!いいね、その表現! 茉莉ちゃんは旦那さんの事愛してるもんねぇ! くふふふふ。」 「栞里ちゃーん!!」 私は栞里の肩をペチンと叩いた。 「ごめんごめん。茉莉ちゃん弄りやすいんだもん! くふふ。でも、旦那さんへの『好き』と イケメン先生への『好き』は、私が思うに、 気持ちが違うんだろうね。それは、浮気には ならない と思うよ。 旦那さんもそう思ってるから、先生ネタで ふざける余裕があるっぽいし。」 「そうなのかなぁ…。まぁ、旦那ともめないに 越したことはないから助かってるんだけど。」 栞里はこんな話を、笑いながらも真剣に 聞いてくれる。頼りになる。 私は栞里のことを素敵な同僚だと思ってる。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加