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興味
そのプリントには『学級通信』と書いてあった。
モノクロ印刷だから少し見づらいが、
通信の右上の方に写真が載っていた。
教壇に立つ1人の教師の写真だった。
“お?
これが今年の担任かぁ?
んーーー、残念。
モノクロ過ぎてイケメンかわかんないじゃん!”
通信には教壇に立って、少し笑顔を含ませながら
何かを語りかけているような男性教師の写真が…。
見た目は、まんざらでもない。
写真からでも優しそうな感じが伝わってくる。
ただ、モノクロ印刷だし、学校通信用だから
紙質も画質もイマイチ。
さらに、カバンの中でクシャクシャになってたから
色んな所にシワが入ってしまってて余計
わかりづらい…。
でも、イケメンと言われれば…そうなのかも。
はっきりとした画像ではないことが余計に
私の妄想意欲をかきたててアレコレと
膨らんでゆく。
「ねぇねぇ。大樹~。
プリントがシャクシャなんだけど~。
プリントみにくいじゃん。
どうしたらこんなにクシャクシャになるん?」
「普通にカバンに入れたらこうなってた~。」
「普通に入れたらならんよー。」
「えー?ごめんなさーい。」
「次からはクシャクシャにしないように持って
帰ってきてね。」
「あーい。」
「…てか、この前プリントいれるように渡した
クリアファイルどうしたん?」
「あれね。ちゃんとカバンに入ってるよ。」
「おい!ちゃんと使ってよ~…。」
「だってー。めんどいもん。」
「何~!?」
「あはは!ウソウソ★
次からちゃんと入れてくるねー!」
私は無邪気に笑う大樹を取っ捕まえて、
『くすぐりの刑』に処した。
「ひゃー!やめて!くすぐったい!
あひゃひゃ!ごめんなさーい!!」
「ちゃんとクリアファイルに入れてくる~?」
「ちゃ、ちゃんとするから~!
ひゃひゃ!笑いすぎてお腹いたい~!」
「よーし、約束だよー!」
私は笑いながらくすぐられて悶える大樹から
離れた。
こんなやり取りをした後、ふざけた時に
テーブルから落ちたプリントの束を拾って
本題の質問に。
「ね、ところでさ。この人が担任の先生?」
「見せてー。」
『くすぐりの刑』から解放されて、
床に転がっていた大樹が飛び起きて来て、
プリントを私の手から奪い取り、ソファに座った
私の横に凭れかかりながら写真の人物を
まじまじと見つめた。
「そうそう!この人!!すっげーの!!!」
一通り話して落ち着いたかと思ってたのに、
突然大きな声で嬉しそうにまた話し出した。
「めっちゃイケメンでしょ?
お母さん実物見たらビックリするよー!」
「えー!?そんなにイケメンなん?
そりゃ、見てみたいなぁ♪
この写真じゃよくわかんないしー。
お父さんとどっちがイケメン?」
「どっちも~♪」
大樹は自分の父親と担任を比べながらクスクス
笑っている。
初めての男の先生が嬉しくて楽しくて
たまらないという感じが伝わってきたのと、
モノクロのプリントのせいで余計に担任に
興味を持ってしまった。
写真の下には簡単なプロフィールが書いてあった。
しかし、ちゃんと読む前に大樹にプリントを
奪われてしまって読めてない。
「ねぇ、大樹。プリント返して。
まだ、お母さん読んでないよ。」
「僕が先に読むの~。お母さんはそのあとね!」
「えー!?」
私はお預けをくらってしまった。
仕方ないから他のプリントに目を通した。
“どんな人なんだろう?”
“何歳くらいなんだろう?”
“名前は?…見そびれたなぁ。”
普段はあまり人に関心を持たない私なのに
なぜか、まだ会ったことも見たこともない
息子の担任が妙に気になってしまって、
妄想だけがどんどん膨らんでゆく。
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