42人が本棚に入れています
本棚に追加
課外授業
「お母さん、聞いて聞いて!」
大樹の大きな声。
毎度毎度、学校から帰ってくるなり響くのは
大樹のこの声だ。
“今度は、何事だぁー?”
「何々!?何かあったの-?」
リビングから玄関の方を見た。
ドドドドド!
ガチャン!
「わぁ!ビックリしたぁ!」
目の前に大樹が現れて、
危うくぶつかりそうになった。
「お母さん、聞いて!」
息を切らしながら話す大樹。
目がキラキラしている。
“この顔は……何かいい事あったんだなぁー?”
「ねぇ!これ見て!プリント!!」
大樹はランドセルから1枚のプリントを出して
私に押し付けてきた。
“おぉぉ!?何だ?何だぁ?押し付けられたら
見えないやん!あはは。”
ようやくプリントを受け取り、
見ることが出来た。
“んん?課外授業のお知らせ……?”
大樹は嬉しそうに目をキラキラさせながら、
興奮して話す。
「今度ね、学校の裏にある河原に行くんだって!」
「裏の河原って、あの小川?理科の授業で?」
「ううん!総合の授業!2クラスずつで
行くんだってぇ!楽しみだなぁー!」
「総合の授業……?あぁ、消防訓練とか色々やる
授業のことね。へぇ。川の生き物の観察とか、
楽しそうやん!大樹、好きなやつやん。」
「うん!めっちゃ楽しそう!その日は絶対、
雨降らないといいなぁ!」
「あはは!そうだねぇ。」
“何々?持ち物は…タオルに着替えに水の中を
歩ける靴、但し、クロックスはダメ…か。
あ、じゃあ、あのウォーターシューズが
使えそうやん。”
プリントを見ながら必要なものを確認した。
“来週の水曜日かぁ。雨降らなきゃいいけどな。
でも、最近天気良くない日が続いてるからなぁ。
後で天気予報みておこうかな。ふふふ。”
「ねぇねぇ!お母さん、水の中歩ける靴って
ある?」
「あるよ。あの黒いシューズ。水中用やん。」
「あ!あれね!もう準備しといていい?」
「まだ早いでしょー。あはは!」
「でもさ、でもさぁ…。」
「大樹~。その前にやることあるでしょ?
宿題と明日の準備。そっちが先でしょ!」
私の言葉に口を尖らせる大樹。
「ちぇーっ!宿題やりたくないなぁー!」
「ファイト-。」
ブツブツ言いながら宿題を始めた。
その横で、私は天気予報をチェックしてみた。
“あー。週間天気予報だと、曇りのち雨かぁ…。
どぉかなぁ?行けるんだろうか。”
『雨天の場合は次週水曜日の予定』
プリントにはそう書いてあった。
その日から、毎日、大樹の天気予報チェックが
始まった。
日に日に増えていくてるてる坊主サン。
課外授業の前日はあいにくの雨。
「あーあ。明日も雨かなぁ。やだなぁ!」
窓におでこをくっつけたまま、大樹がぼやく。
「てるてる坊主効果ないやんー!」
てるてる坊主をつつきながら不貞腐れている。
「ははは。天気はどうしようもないからなぁ。
そりゃ、しゃあないやろ。」
亮輔は、外を見ながら不貞腐れている大樹の
横に並んで、頭をワシワシしながら宥める。
「えー!雨なんて嫌いだぁ!」
「大樹の日頃の行いのせいやな。」
「違うもーん!」
そう言って亮輔に体当たりをして、頭を
グリグリと押し付ける。
笑いながら宥めるようにヨシヨシする亮輔。
“ふふふ。亮ちゃん、優しい~!”
そして、当日。
……朝から雨降り。
大樹のテンションは朝から下がりっぱなし。
“うわぁ。不貞腐れてるぅ。
まぁ、分からんでもないなぁ、その気持ち。
そうなるよねぇ。楽しみにしてたもんねぇ。”
「大樹!来週はきっと晴れるよ!多分ね!」
私は屈んで不貞腐れてる大樹の顔を覗き込み、
わざと明るい笑顔と口調で両肩を叩いた。
「晴れるかなぁ…。」
「きっと晴れるよ!だから、今日は元気に
行ってらっしゃい!」
「はぁい。いってきまぁーす…。」
しょんぼり気味に出掛けていった。
“晴れると言ったものの、どぉかなぁ…。来週も
予報あんまり良くないんだよねぇ…。”
テレビの週間天気予報を見ながら、ついつい
溜め息をついてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!