雨降りとてるてる坊主

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雨降りとてるてる坊主

課外授業当日は朝から雨だったので、 やはり延期になった。 不貞腐れて帰ってくるかと思いきや、 意外にも明るく帰ってきたので、こちらが 拍子抜けをした。 しかし、 下手に触ると面倒くさい事になりかねないので、 当たり障りなく大樹に接した。 「今日は学校どうだったぁ?」 「んー?別にぃ~。」 “おぉう…。機嫌は良くないねぇ。うーん。 どうしたもんか…。” そんな事を考えて、次の言葉を探していたら、 私の方を見て、大樹が話始めた。 「あ、佳翔先生がね、課外授業するはずだった 時間にこう言ってたの。…雨の日の過ごし方。」 “ん?何だそれ……?” 大樹は話を続ける。 「佳翔先生がね、『雨の日って憂鬱になるよね。 やりたい事も出来なくなっちゃうし、何となく 気分が重くなるよね。でもね、ちょっとだけ 考え方を変えてみましょう。まずは、目を 閉じて雨の音を聴いてみてみましょう。』 って、そう言ったの。」 “ん?これは……『廣崎マジック』か……?” そう思いながら、大樹に続きを促した。 「うん、でね。クラスの子みんな、シィーンて したの。」 「うんうん。それで?」 大樹は相槌を打つ私を見て少し嬉しくなったのか、 言葉を速めながら続きを話す。 「でね、『何か聞こえませんか?』って…。」 「ほぉ。それで?それで?」 大袈裟に大樹の話に乗っかる私。その反応に わかりやすく嬉しくなる大樹。 「でね!僕ね、手を挙げたの!そしたら先生ね、 当ててくれてね、こう答えたの。 『雨の音が音楽みたいに聞こえます。』って。 そしたらね、佳翔先生がね、『大樹さん、 すごいですねぇ。どんな 感じの音楽?』 って!だから、僕、『ボツボツって音が ドラムっぽい。他にもカンカンって一定の リズムをとってる音がするし、トコトコって いってるから、何だか音楽みたい。』って 答えたの。」 “ほぉぉー!なかなかの感性ですなぁ! 我が子ながら、すごいぞ!” そこから先の廣崎の反応が気になってしまい、 「それで!それで!?」 ワクワクしながら、大樹に聞いた。 私の反応に大樹も嬉しくなったのか、 「でね!でね!佳翔先生がね、『ほぉ!なるほど! 大樹さんすごいですねぇ。』って言って 肩をポンッてしてくれた!めっちゃ嬉しかった!」 「へぇ!よかったやん!佳翔先生に、 誉められたねぇ!」 大樹は笑顔になっていた。 それから、笑顔のまま話を続けてくれた。 「佳翔先生がね、こう言ったの。『雨降りって だけで、気分が憂鬱になっちゃう事が多いけど 考え方や見方を変えるだけで、雨降りでも 今みたいに楽しく感じられるんですよ。 今回は、雨降りで楽しみにしていた課外学習が 延期になってしまいましたが、そのおかげで 雨降りの良さも見つけられましたね!』って。 僕ね、雨降り好きになったよ!」 「へぇ!良かったねぇ!大樹、また、楽しみが 増えたね!」 そういって、私は大樹の頭をグリグリ撫でた。 ユラユラしながら大樹は雨の日だけど 嬉しそうだった。 “やっぱり『廣崎マジック』だぁ!!ふふふ。 すごすぎる!これは一種の洗脳やん。ヤバイ! くふふ。先生のしゃべり方のせいかなぁー。 まさに、教祖サマやん!ふふ。” 廣崎の言うことには、何かよくわからないけど 力強さがある。 だから、『あぁ、そうなのかも…。』と 思ってしまうことが多々ある。 子供たちもそうなんだろうか? おそらく、私よりかは純粋な生徒達は、 先生の意見は絶対なんだろう。 “やっぱり佳翔先生ってすごい。” それからしばらく天気の悪い日が続き、 相変わらず増えていくてるてる坊主サン。 カーテンレールにはてるてる坊主の群れが 出来ている。 前日は曇り。 「明日は降らないよね?」 「曇りになってるねぇ…。降らないといいね。」 窓の外を2人で見ながら、天気の話をした。 「もう1個てるてる坊主作っとこ!」 そう言って大樹は小さめのてるてる坊主を作った。 「明日、晴れますように!」 翌朝、空はどんよりした雲に覆われている。 今にも降ってきそうなぶあつい雲。 「雨、降るかなぁ。午前中に降ったらまた 延期やもんなぁ。」 大樹は心配そうに外を眺めている。 「降らないといいねぇ。とりあえず、朝御飯 食べちゃって。」 「はぁい。」 “うーん。今にも降ってきそうな感じだなぁ。 天気予報は…。” 外を眺め、テレビに目を移した。 ちょうど天気予報がやっている。 『今日の予報は曇りのち雨です。降水確率は 50%です。』 “……降水確率50%かぁ。こりゃ、降るなぁ。 また、延期にならなきゃいいけどなぁ。” 「課外授業出来るといいなぁ!」 「そうだねぇ。気を付けてね!」 「はぁい!行ってきまーす!」 元気に出掛けていった。 私も家事を済ませて仕事へ向かった。 10時過ぎた頃、ポツポツと雨が降りだした。 「あーあ、降りだしちゃったかぁー。」 お店の外を眺めながら呟いた。 「え?あ!雨だねぇ。ねぇ、何かあったの?」 一緒に働くパートの永塚 栞里(ながつか しおり)が聞いてきた。 「んー?今日ね、子供のクラス、課外授業で 河原探索だったのよー。しかも、先週も雨で 延期で…。今日もこの様子だと延期になるかな。 可哀想だなぁ…。」 「あちゃー!残念だね。でも、学校あるある だよね。河原探索とか、楽しそう! うちの子の学校そんなのないよ!いいねぇ。」 「そうなの?どこの学校でもやるんかと思ってた。 そういえば、子供、同い年だったよね!」 「ねぇー!きっと不貞腐れて帰ってくるよー? あはは。」 「だねー!あはは。」 そんな話をしながら仕事をした。 結局、雨は上がらず、午後も降り続いている。 ガチャ 「ただいまー…。」 大樹が帰ってきた。 “く、くらい!落ち込んでるぞぉー。 うーん。何て声かけようかな…。” 「お帰り~!」 わざと、明るい声を出した。 「今日も延期になったよー!残念すぎる…。」 私は大樹の頭をヨシヨシしながら、 「そっかぁ。残念だったね…。また、来週かな。」 「うん。2組と4組はもうやったんだってー。 ずるいやん!うちらの時ばっか雨降り やもん。」 「うーん。そうだねぇ。早く行きたいよねぇ。 でも、お天気ばっかりはどうにもならんよ。」 「そうだけどさぁ…。」 口を尖らせて本気で拗ねる大樹。 “何とかしてあげたいけど、 こればっかりはなぁ…。” 少し考えた後、私は大樹に言った。 「大樹。連絡ノート出して。」 「ねぇねぇ!お母さん、今日は何書くの?」 首をかしげながら興味津々で聞いてきた大樹に、 私は笑いながら話した。 「うーん。雨降りのお話かなー。ふふふ。」 「雨降りのお話~?」 「そうだよぉ。雨降りと課外授業のお話かな。」 「来週は晴れるといいなぁ!」 「ふふふ。そうだね!じゃあ、今日は一緒に てるてる坊主作ろうか!」 「うん!作る!」 「よし!じゃあ、作ろう!」 連絡ノートをテーブルに置き、大樹と2人で てるてる坊主を作ることにした。
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