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4月のとある日。
ガチャッ★
バタバタ!
「お母さん!お母さん!」
「おかえりー。」
「お母さん、聞いて。」
「もぅ。帰ったらまずは『ただいま』でしょ。」
「あ、ただいま!聞いて聞いて!」
日差しも暖かくなってきた
晴れた4月のとある日。
今日から新学期。
始業式が終わり、慌ただしく帰ってきたのは
4年生になったばかりの息子の大樹だ。
元気で活発で、よく喋り、生意気だけど
ちょっと甘えん坊な憎めない性格の大樹。
何だか、新学期早々にいいことでも
あったのだろうか。
私の名前は相澤 茉莉。
性格は明るくて超ポジティブ 。
何事もチャレンジしてみるタイプ。
完璧主義と見せかけてかなりの天然要素あり。
そして、意外と几帳面で、気ぃ遣い。
バンギャあがりのせいか、見た目が奇抜と
言われてしまう。
……確かに、『人と同じ』は好きではない。
アイラインばっちりの目力強めだが、決して
厚化粧な訳ではない。
素っぴんでもパーツがはっきりしているだけなの。
いつも、年齢より若く見られるのはちょっと自慢。
年齢は……はっきりとは言いたくないから、
アラフォーとだけ…。
ただ、見た目のせいでドSと思われがちだが、
実はかなりのドMで妄想癖あり…。
背中まである髪はインカラーしていて、
内側が明るめで、表面は栗色。
少し癖っ毛がコンプレックス。
身長は151㎝で低めだけど、いつもヒールを
履いているからそんなに小さくは思われてない
ようだ。
アパレルのパートをするかたわら、
ハンドメイド作品の販売もしている。
今日は始業式で大樹が早帰りしてくるから、
お仕事は、お休みをもらって、
録画してたまってたドラマを観ながら
久々にのんびりした午前中を過ごした。
私は空になったコーヒーカップを片付けながら
「何々~?そんな慌てて。
何か良いことでもあったの~?」
と、少し笑いながら尋ねた。
嬉しそうに目をキラキラさせて
息があがってる大樹。
よほど伝えたいことがあったのだろう。
「お母さん聞いて!」
「はいはい。ちゃんと聞いてるから話してみ。」
「あのね。担任がすごいの!」
「ん???ふふ。」
“ん?担任がすごい???
ん~。
全く意味がわからないぞ??”
興奮気味の大樹が面白くて笑いながら
「何!?どうすごいの?」
と、聞き返した。
「初めて男の先生になった!」
「そうなんだ。やったじゃん!」
「うん!それでね!
その先生ね、バク転出来るのっ!
すごくない?」
「へぇ!そりゃスゴイ!」
「教室で自己紹介の時にバク転見せてくれた!
しかも、スーツ着たままっ!!」
「まじか…!」
“たしかに…。
色んな意味ですごいぞ、その担任。
着任早々、自己紹介でバク転する先生…。
見たことないなぁ。
しかも、スーツ着たままとか…。
スーツ破れなかったんかな。ぷふふ。
相当、伸縮性に優れたスーツなんかな?笑笑
若いのか?
天然なのか??
体育会系のマッチョ先生!?
いったいどんな先生なのかなぁ。”
私の頭の中に妄想の担任像が
ものすごい勢いで作り上げられていく。
「それからね、めちゃイケメンやった!」
「イケメン!?」
大樹から飛び出た“イケメン”という言葉に
ついつい笑ってしまった。
「そう!イケメンでめっちゃ元気な先生!!
すっげーの!」
もうダメだ。
私は堪えきれず、声を出して笑ってしまった。
今まで、自分からは学校での話をあまりしなかった
大樹が、ここまで興奮して 話す姿に驚きと嬉しさと
笑いが混じって変な感じで。
入学してからずっと、担任が女性だった。
それが大樹には不満だったらしい。
だからなのか、初の男性の担任は、
相当、衝撃的な出会いだったようだ。
“しかし、この担任なかなかやるなぁ。”
この担任が初日から子供達の心を
グッと掴んだのはまちがいないだろう。
“イケメンで?
めっちゃ元気で?
スーツ着たままバク転する担任…?
いったいどんな先生なんや?ぷふふ。
やっぱ、笑顔が似合う
体育会系のマッチョ!?
それとも、一見、クールで眼鏡が似合うのに
スポーツ万能的な?くふふ。”
もう、想像が膨らみすぎてる。
妄想好きな私はあれこれと勝手な妄想を
膨らませていく。
「それでね、響君と煌君と京ちゃんと
同じクラスになったよー。
それからねー、、、。…ちょっと!
お母さん!笑いすぎ。ちゃんと聞いて!」
「ごめん、ごめん。
だって、スーツでバク転て…。ぷふふ!
どんな先生だろう?って想像したら
笑えちゃってさ。
一緒のクラスになりたかった子と一緒に
なれたやん。やったね!
楽しそうな先生で良かったじゃん。
念願の男の先生やし。」
「うん!めっちゃ楽しそうなクラスやよ!」
嬉しそうに笑いながら話す大樹を見て
私も嬉しくて笑い返した。
今年1年間が楽しくなりそうならいいと
思いながら話の続きに耳を傾けた。
『それからねー……』と、話ながら
カバンの中からクシャクシャになった
数枚のプリントを悪気もなく笑顔で手渡す
大樹に尋ねた。
「んで、先生はいくつくらいの人?
バク転するくらいやから、若いんかな~?
それとも、お母さんと一緒くらい?
んで、やっぱりマッチョなん?ふふふ。」
「うーーーん。たぶん若いと思う!
あー。でもお母さんと一緒くらいかなー。
分からん!マッチョまではいかないけど
力強そうやったよ!優しそうやった!」
「へぇ。良かったじゃん。
どんな先生なんかなぁ。
お母さんも見てみたいなぁ。」
“イケメンで?
元気でバク転できて?
プチマッチョで優しそう…?ふふ。
私と一緒くらいならそんなに年ではないけど
若いってほどでもないか。”
手渡されたクシャクシャになったプリントの
シワを伸ばしながら目を落とし、
引き続き妄想の担任像を思い浮かべ、
クスクス笑いながらまだまだ続く大樹のお話に
耳を傾けた。
…しかし、正直、大樹の同級生の話は
私の耳には入ってこなかった。
もう、衝撃的な担任に興味が湧いてしまっていて
私の妄想癖が暴走し始めようとしていた。
渡されたプリントのシワを伸ばしながら、
一枚のプリントにふと目がとまった。
写真が載っているプリントだった。
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