温かなぬくもりを探して

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温かなぬくもりを探して

「ピチピチ」 鳥の声が聞こえる。天気が悪いことは分かっていたけれど今の今まで生き物がいるとは思っていなかった ニック「……朝か。できるなら終わりにしたい この気持ちに壊されてしまう前に」 日に日に疲れが溜まってくる 本当に休める日が来ない こんなこと今まで全くなかったのに 服を整えることすら忘れて急いで議論の場へと向かう 前は足が止まった、やる気すらなかったあの場所に ニック「おはよう」 扉を開ければ前とかなり減ってしまった数人の顔が見える GM「では、皆様お集まりになられたようですので始めさせていただきます 昨晩の犠牲者はロディ様、サンドラ様 スーザン様です 議論を始めてください」 言葉にならなかった。自ら襲撃に行かなかった そのせいでロディは死んだのだとやっと理解した ニック「…アンナ、ロディ、サンドラ、スーザン ソフィア、クリス、マイク もう、かなりの人がいなくなってしまった 皆、大切にしていたはずなのに……」 ジェシカ「もう、嫌です!!お姉様…お姉様ぁ どうして!」 鳴き声、失意、暗々しい感情しか残らないこの場で話をする意義があるのか もはや何もかも意味をなさない そんなのは分かっていた エマ「……皆死んじゃった どうしてこんなに簡単に死んだの? かなしい、ね?」 その言葉を聞くつもりはなかった 彼女はおそらく狂ってる ただ殺して悦に浸っているだけなのだから ニック「墓場には胡蝶蘭を 彼らに祝福がありますように ジェシカの寂しさはわかるよ 俺も大切な人を失くしたから」 ジェシカ「誰がお姉様を、どうしてぇ!」 嘆きは止まらず増えていく一方で気休めにならないことを知った なにもできることがないことも そろそろこの時間も終わる。この地獄が エマ「さぁてフィナーレといこうかな もう終わるもの」 ニック「うん、終わる。また無慈悲な運命によって」 GM「時間になりました 投票を始めてください」 エマ「誰が選ばれるかな。こわーい これで何があっても終わりだね」 ニック「長かったなぁ。ふふ、もう終われる うんざりだ」 GM「では、投票の結果エマ様が処刑されることとなりました。遺言をどうぞ」 その言葉に落胆した。俺は死ねなかった 皆のところへは行けなかった どうせなら死にたかったのに エマ「あはっ あはははは!!私かぁ私なんだね 楽しい!これで全部終わりだねぇニックぅ」 くるりと向き直る楽しそうな顔が見えた それを無言で睨み付ける 怒りで煮え繰りそうな感情をその場に押さえつけて この挑発には乗るべきではない わかってる、そんなことは それをお構いなしに顔を歪め言葉を続ける彼女 は まさしく人間だと思いたいくもないくらいだ エマ「どう?アンナちゃんはねぇ 貴方のことを愛してたんだよ!クスクス 気づかなかったの?わからないふりしたの? 今の気持ち教えて!! おっかしい。身を呈して守ってくれたのに ほんっとバカなんだね!」 耐えろ。聞き流せ。ただ言い返したところで こいつには無意味だ 怒りで今にも壊れそうな頭に言い聞かせた ひたすらに言葉を遮断する もうすぐ死ぬ異常者につきあう必要はない エマ「アンナちゃん最後の最後までさぁ ずっとずっとお、死ぬまでニックだけは守るって私の邪魔したの!!ほんと意味分かんない なんにも力ない無力の癖に」 ニック「おまえがアンナを!!」 全てがとんだ。プツリと 無理だった、この激情を押さえることは 怒りではない、これは殺意だ 許せない、殺したいが為に初めて目の前の対象に爪を振るっていた 「ザシュ」 引き裂いた柔らかいものの感触 生暖かい赤が頬に飛ぶ いつも慣れ親しんだはずの行動なのに違和感が 付きまとった エマ「………………………」 ニック「おまえだけは許さない たとえこの命を差し出しても」 サイコに関われば死ぬ それが能力であるなら処刑と言えど俺の命も 奪われる そうしたらアンナの所にいってやれる ロディの所でさえ エマ「……な~んだ。結構普通 狼に殺される感覚ってどうなんだろって期待してたのになぁ 殺してほしいの?あはっ それなら残念 殺してやんない。バイバ~イ哀れな人狼!」 ニック「!?…おまえ」 その手には銃弾が握られていて 「パンッ」 次の言葉を発する前に歪んだ笑みのまま 床に落ちていった 血の広がり方を見れば死んでいることは一目瞭然だった あえて生かされた。そう、無様に GM「これにより人狼と市民の数が同数になりました。人狼陣営の勝利です 追加勝利として純愛者も勝利となります お疲れ様でした」 純愛者の勝利…どうせならアンナも共にここに いてほしかった 自分一人の未来ではなくて 部屋から連れてきてしまったぬいぐるみから はらりとなにかが下に舞いながら落ちた それは大きなハート。彼女が俺を愛してくれた証 ずっと、ずっとこれを大切に壊れ物のように扱っていたのは自らそのものだったからに他ならなくて涙が滲んでしまう ニック「どうして疑ってしまったのだろう なんで分からなかったのかな 君の声、優しさ、笑った顔、その全てはずっと 俺に向けられていたのに」 ニック「アンナ…君がいないと とても寒いよ」
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