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束の間の微睡みの中で
サンドラ「やっぱり食事、美味しいわねアンナ
ちょっとは温かくなったかしら」
得体の知らない恐怖に食事も進まず悩んでいると
サンドラから声がかかる
彼女なりに私の心配をしてくれているのだろう
それはとてもありがたいことだった
アンナ「美味しいものを食べたら少し体も温かく
なってきました
心配してくださってありがとう
それとねサンドラ……聞きたいことがあるの」
聞こうと声をかけたものの恥ずかしくて声が少しずつ小さくなっていく
サンドラ「ん?アンナどうしたの?
なにかあったかしら」
聞きたいのだけど凄く気恥ずかしい
でも、好奇心の方が勝って小さく小さく
言葉にしていく
アンナ「あのね、皆の輪から少し離れたところにいる彼……ニック
ねぇ、どうして彼は寂しそうなの?」
人当たりは良さそうなのに何故ぽつりと離れようとしてるのか
きっと優しい人だと思うのに
サンドラ「ニック?ああ、彼ね
なんでも来た人達を歓迎しすぎて皆に避けられてしまったの
私もあまりに力が強すぎて服の裾が破れてしまうくらい引っ張られたわ」
サンドラ「気になるの?なら行ってあげたら?
もしかしたら寂しいのかもしれないし」
寂しいのかもしれない……
その言葉が心の中に響いてきてきゅっとする
ああ、もし…もし嫌だと思われないなら
側にいても怒られたりしないかしら
ゆっくりしていいと言ってくれたのだもの
きっと大丈夫
それでも自分から行く、それはかなり私にとって
負担だった
でも話相手を得るためなら我慢しないと
深呼吸をして気になったニックの側に向かえば
彼はどこか上の空で私の姿が見えていないらしい
ドキドキしたのにこれじゃあ私の方が遊ばれてるみたい
むすっとしてしまう自分がいたが彼は悪くない
アンナ「あの、ニッ…ニックさん
お隣、座ってもいいですか?」
整えたはずが上ずってしまった声に自分を叩いてやりたくなる
恥ずかしいという感情しか頭の中には存在していなかった
ニック「ん……ああ君か。えっとアンナであってるよね?
まさか人が来てくれるとは思わなかった
皆、避けていたから」
アンナ「えっと一人の時間を邪魔してしまったならあっちいきます。失礼しました!!」
頭はこんがらがって訳もわからず
スッと身を引いてしまった
ニック「待ってくれアンナ」
アンナ「え?」
密やかな声が聞こえたかと思えばぐっと手を引かれて驚きから少し声が漏れる
後ろを振り向けば私の腕をぎゅっと握る
彼の姿に思わず心臓が大きく跳ねた
ニック「あっ、ああごめん
ひきとめて悪かった
良ければでいい…だから、いてもいいよ?」
掴まれて驚いたけれど怖いわけでもなくて
ちょっと力が強いだけ
優しさがある 私はそう見えた
アンナ「ふふっ良かった
ならお言葉に甘えさせてくださいニックさん
優しい方ですね
お見かけした時から思っていました」
良かった否定されなくて皆が仲良くしているから
私は置いていかれてしまうのではと怖かった
ニックさんがいてくれるなら一人にならなくてすむ
ニック「良かった。なんか遠慮させてしまった
みたいだから。それに俺のことはニックでいい
だから隣においでよ」
こちらとしては願ってもない問いかけ
高鳴る心は抑えを知らなくて
アンナ「では、遠慮なく
これで温かくなりますね」
どうしても私は天邪鬼みたいだから
少しでも温かくなりたくて身を彼に預けてみれば、ぎこちなくだけれど私を支えてくれて
私だけがニックの事を独占できている
その奇跡が私の心に温かさをくれた
ニック「これいつまで続くのだろうね
早く収まってくれれば帰れるのに
アンナも災難だったね」
ニックは災難だったと言うけれど私はそんなに
悪いことではなかったと思う
貴方とはこの悲劇がなければ会うこともできなかったんだから
アンナ「んー どうなんでしょうね
このアクシデントがなければ貴方には会えてなかったのだし、良いことと悪いこと半々だと思います。こんなにも温かいのはニックのおかげ
ありがとう」
ニック「それは嬉しい限りだけど俺がいただけで良かったの?
なら、いつまででも居てあげようか?
それくらいならできるし誰かに喜ばれるのって嬉しいものだね」
笑顔が綺麗だから、ずっとそのままで居てほしいと思う。なによりもニックには笑顔が似合うから
アンナ「その申し出はとても嬉しいです
できるならずっと側に居てもらえたら私も幸せでしょう
でも、迷惑じゃありませんか?」
誰かといなければ全てが冷えきってしまう
そうなってしまう前に望んでもらえるなら
幸せになることができると思うの
ニック「ほんとはこっちが言わなきゃいけないことなんだけどね
アンナが寂しくないようにするからさ
いつでも言って?
そうしたら聞けることなら聞くよ」
そんなにしてもらっていいんだろうか
私はなにもしていないのに
アンナ「いいの?私はなにもしていないけれど
貴方は私ばっかりって思わないんですか?」
ニック「ん?そんなことないよ
君はあえて俺の所まで来てくれただろ?
それだけで十分すぎるくらいさ
貰ってるんだ。アンナは律儀なんだね」
優しげに笑うニックの姿があってほっとする
ふと視線を下に落とせば小さな熊の人形が目に入ってきて疑問が浮かんだ
きっとよく見ていなければ見逃してしまうくらい
些細なことだけれど不思議だった
私が人形を見ているのをわかったのか彼の手に
力が入ったのが窺えた
心の中に踏み込みすぎてしまったんじゃないかと思って弁解するように小さく言葉を続けた
アンナ「いいの 言いたくなかったらそれでいいわ。少し気になっただけ」
人に言われたくないこともあるだろうと内心踏み込むことは憚られたが好奇心に負けてしまった
嫌がられたりしないだろうか
それだけが気がかりだった
ニック「…気にしないで。怒っている訳じゃないんだ。少し驚いただけだよ
これはね子供の時に母からもらった人形
やっぱり忘れられなかったんだ
大切にしていたんだけど少しずつ綻んでしまってね。可愛いだろう?」
懐かしい思い出に浸る顔
ニックの儚げな顔は今の過酷な状況を忘れてしまいそうなほど明るくてこちらまで元気をもらえそうだった
人形に関してはボロボロでなんとも言えないと私が無神経な人なら真っ先に口にしていただろう
でもニックの嬉しそうな顔を見ていたら口が割けても言えそうにはなかった
アンナ「とっても可愛いと思う
人形の感じからしてとっても大切にされてきたのが目に浮かぶようね
きっとこの子も幸せだと思うわ」
ニック「そんなの初めてだ。笑ってくれたのも
誉めてくれたのも君くらいだ
やっぱりとても優しいんだね
ごめん、少しでも疑って
アンナはそんな人じゃないって思ってたのに
なに考えてるんだろ俺
ああ…あんまり気にしないで」
なにか言葉をかけようとしたけど気にしなくていいの一言で言い出せない
不快にさせたくない。そう思うとなぜだか不安に思う私がいた
ニック「アンナ?顔色悪い気がするけど
大丈夫かい?なにかあった?」
頭の中のぼんやりと戦っていたらいつの間にか
ニックの顔が目の前にあって
アンナ「わっ!あっあ…。ごめんなさい
ちょっと考え事です
考えていたらぼんやりしてしまいました」
ニック「そうか、体調が悪いわけじゃなくて安心したよ。でさ、考え事って?
良ければ聞きたいな」
これもきっと彼の優しさの一つ
私の考え事が悩んでいるように映ったのだろう
だとしたら私はどうしたらいいんだろうか
悩みではなくただ人形を作ってあげたいと思っているだけだとしたら
きっと笑われてしまうでしょうね
アンナ「全然いいわ。悩み事じゃないの
ニックに人形をあげたいなって思っていただけ
兎の…人形。
それ、貰ったら貴方は嬉しい?それとも…
いえ、なんでもない」
私ったら、はぁ…こんなこと言うつもりじゃなかったのに。ほんと嫌になっちゃう
彼の顔を見ることすら怖い、そう思える
目をきゅっと瞑った
ニック「…人形?それを俺に?
そっか、そっかぁ。嬉しいね
きっとこの子も喜ぶだろう。ありがとうアンナ
俺ばっかり、こんなに幸せになっていいのか?
久しぶりだよ。こんなに嬉しくなれるのは」
思わなかった。てっきり幼稚だと笑われるのだとばかり
私には何もできないと悲観していたのに
ニック、貴方は喜んでくれるのね
望まれていたんだ
そう思えば言葉が自然と口から漏れていた
アンナ「貰ってばかりなのは私
だからニックを少しくらい喜ばせるくらいでちょうどいいの
それでも沢山、貴方から貰っていたから
私、今から作ってきます
おやすみなさいニック
また明日。楽しみにしていてくださいね」
にっこり笑いかけて部屋への帰路へつく
ニック「おやすみなさい。アンナ」
最後まで優しい声が私に届いた
私の心は冷えきった吹雪の中にいた時があった
とは思えないくらい温かった
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