愛しい人の隣に

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愛しい人の隣に

「ピチピチ」 微かに自らに差し込む光に静かに目を開ける 朝…始まってしまう どうか、できるだけ長くニックの側に居られますように 形になった想いが私を締め付ける 恋って楽しいものだと思っていた なのにこんなにも胸が痛いなんて想像もしていなかった ぬいぐるみを大事に抱え服をぴしりと着こなしてロビーへと降りる 私が彼を守るの、絶対に アンナ「おはよう、外はダメそうね」 私が早々にそう挨拶すると皆の視線が集まった その顔には憂いが見えた クリス「そうだな。後一日はここに籠らなければならないらしい」 エマ「おっはよーアンナちゃん。いい朝だね 顔色悪いよ?悪い夢でも見た?」 にこりと笑う顔、こんな状況なのに明るい表情をされるとは思っていなくてスッと身を退きそうになる アンナ「う、うん。寝不足みたい 向こうのソファーにでも行って休んでくるね エマ、また」 エマ「気をつけてねアンナちゃん 体って脆いものだから」 ひらひらと手を振って私を送り出したエマから 会話をすぐに終わらせて距離を保つ なんだか得たいの知れない雰囲気。近づきがたい これは一体? わからない、わからない 違った。今日はそんな事を気にしている場合じゃない そう、ニックに作った人形を渡すことを目的にしてたんだった どこに?私が辺りを見回すとロディとサンドラが話しているのが目に入る その横にはジェシカがいて ニックは? あれれ? キョロキョロと探しても姿が見受けられない ニック「どうしたの?とっても不安げな顔してる アンナ、疲れてる?」 声がしたと思えばきゅーっと背中に暖かさを感じて頬が燃えるようにかっとなってしまう 我ながらわかりやすくて凄く恥ずかしい ニック「顔、真っ赤だよ?クスクス ちょっと意地悪しすぎたかな さ、席も空いてるしそこに行こう? 話しでもしようか」 それは願ってもない提案だしどちらかと言えば嬉しいものだったこともあって断る気にはならなかった 終始、心臓がバクバクと早鐘を打っていてうるさい。何よりも今の私の気持ちを表していた アンナ「心臓に悪いです。なんにも感じなかったですよ?意地悪ですね。 私も話がしたいと思っていました。嬉しいです」 笑顔で答えると無言で手を引いて席まで案内してくれた 良かった、覚えていてくれて 席に座れば一気に力が抜ける 後ろにある背もたれに深々と掛けてため息をつきそうになる ニック「だいぶ疲れてるみたい。昨日の夜 何かあった?」 その問いかけは優しくて私を心配してくれているのは明白で答えようと思ったけれど空気を悪くしたくない その気持ちがあって、きっと後々は全員聞くことになるだろう人狼ゲームの事は心の中にしまうことにした アンナ「人形…作ろうと張りきったら完成に時間をかけすぎてしまったの 気づいたら深夜を回っていてその疲れが出てたのね 心配させてごめんなさい これは私の自信作、ニックに受け取ってほしくて作った物だから うさぎ、受け取ってもらえますか?」 自分の隣にそっと置いた想いの形を彼に手渡す 私の全て、ニックを守る力 何故だか凄く心が温かくて自然と視線は下を向く 顔なんか見てられなくて、やっぱり私は恋をしているのだと感じさせられる ごく短い間しかいられないかもと不安に心を焦がすなら悔いが残らないくらい大切な人の顔を目に収めておいたっていいじゃないかと皆が言うだろう 私もそうやって出来たならきっと笑顔でいられるんだろうななんて思えば影が落ちる ニック「凄いね、うさぎ。本当にうさぎに見えるよ、ありがとう。大切にするね」 嬉しそうにニックは笑って自分の元から持っていた人形を隣に置いて今度は私の作ったうさぎを膝に乗せてニコニコしているのが見える 良かった、これで大丈夫 ずっと、こんな穏やかな日が続いてくれれば幸せなのに ニック「ねぇ、この目に使ったボタンとか 服はどこで集めたの?」 アンナ「私の部屋のクローゼットにあった服 使わなそうだったから使えると思ったの それしか材料がなくて…」 材料探しにかなりの時間を費やした あまりにも作るには少なかったから ニック「俺はとてもセンスあると思う 色合いも素敵だし、ずっと側においておくよ ありがとうアンナ」 嬉しいと喜んでくれている姿を眺めているだけで 私も幸せな気持ちになれる こういう在り方もきっと悪くない アンナ「あの、ニック…」 GM「では皆様、これより人狼ゲームを始めます。この中に人狼が紛れ込みました 皆様には人狼を探し、処刑していただきます まず、それぞれの勝利条件をお伝えいたします 市民陣営は人狼、恋人陣営を全て処刑した時、勝利 人狼陣営は恋人陣営を処刑し、市民と同数になった場合、勝利 恋人陣営はどちらかの陣営が勝利するまで生存していれば勝利となります その他陣営の皆様には、各々、勝利条件は伝えてあります 全ての説明はこちらの紙をご覧ください 全役職は 賢狼、一途な人狼、サイコ 独裁者、藁人形、番犬、呪われし者 キューピッド、純愛者、サンタの10人です 処刑、投票のアナウンス等は私からお伝えします では皆様、議論を始めてください」 全てを遮って一方的に始まった人狼ゲーム ここで私は生きなければならない 言いたかった言葉を告げるためにも ふとニックの顔を覗くと顔色が優れない 私の腕をきゅっと掴むその姿はさっきとはまるで違う 何かに怯えているように見える 人狼ゲームに?……なぜ怯える必要があるのだろう。市民ではない?それとも、ただ死にたくないと私と同じように思っているからだろうか それなら怯えなくていい。私が側にいる 私が真っ先に貴方が恐れる全てのものから守りましょう アンナ「怖いですか?大丈夫です、私がいますから」 小さく呟けば驚いた大切な人の顔 わかっています、大丈夫。 怖いときは誰にもあるでしょうから 私も貴方がいなければ、きっとここにはいなかった ニック「そうだったね 慣れない空気だったから。もう、大丈夫だよ アンナの方も無理をしていないか? 心配だ。俺だって不安に刈られるんだから」 私の事を心配するニックの目からは恐怖は 何処かにいってしまっていた これで私も安心できる アンナ「大丈夫です。ニックがいますから 私も平気ですよ? それにしても良かった。議論という割には糾弾もされていないし。正直、ほっとしています」 ニック「確かに。それは救いかもしれない 皆、自由に話しているようだし」 ニックに促されて周りの様子を見れば周り会話が耳に入ってくる 沢山の話し声が聞こえた ソフィア「議論って言っても何をしていいかも分からないし、このままでいいよね」 ロディ「皆いそうだし良かったよ」 処刑という恐ろしい言葉があったものの なにひとつ疑い合いのない空間が広がっていた きっとこれでいい ジェシカ「あの…皆様初めまして 夜遅くでご挨拶できなかったのですが、ジェシカ とお呼びください よろしくお願いしますね」 会話を遮りぺこりとお辞儀する新たな女の子 ジェシカ、その名前だけは覚えておこう サンドラ「あら、ジェシカ。貴女もこの場所に迷いこんでいたのね このまま離ればなれになってしまうかと心配だったの」 その口ぶりからかなり親密な関係だと窺える よくよく見れば姿と不思議とにている気もしなくはない アンナ「もしかしてジェシカとは姉妹だったりするんですか?サンドラ」 サンドラ「そうよ、ジェシカは私の妹 今日、お屋敷においてきてしまったから大丈夫か心配していたの でも、こうしてここで会えた それはとっても良いことね」 優しげに微笑むサンドラの姿は姉らしくて普段から仲がいいのだと分かった ジェシカ「お姉様!!ご無事で良かった 一人戻ってこないものだからここまで来てしまったの。ごめんなさい どうか、許してくださいね」 サンドラ「ほんとうに、ジェシカらしいわ こんなところまで来てくれるなんて 私が貴女を怒るとでも? 貴女は私の最愛の妹。誇らしいかぎりよ」 ジェシカ「ふふ、嬉しいです ありがとうお姉様 私が貴女を守りますから」 嬉しそうに抱き合う二人 仲が良くて、明るくて、私にもそんな風に思える場所があったらいいなと思う ここは私の家でも居場所でもない 考えてしまえば急に寂しくなる ニック「ねぇ、アンナ。皆がこんなに楽しんでいるんだし俺達はお昼寝、いや、二度寝でもしようか ここには来てるし怒られたりもしないさ」 小さな声が私の耳に届いてもう一度聞き直してみる アンナ「…二度寝ですか?ニックも夜遅くまで起きていたとか? 寝不足は体に良くないですよ?」 私が首をかしげながら問えばにこやかに笑う ニックの姿が目にはいった ニック「確かにそうだね。ここは外と違うし とても暖かい。だから、いくら寝てても寝たりない。そんな時はもう一眠りといこう。ほら」 ぐいぐいと腕が引かれる感覚がする ニックと居られるのは嬉しいことなのだけど 流石にここまでくると恥ずかしい アンナ「えっと、今から?待って…わっ」 少しも経たない内に体を引っ張る力に負けて 引かれるままにポスッと腕の中に落ちる ニック「捕まえたぁ。やっぱり暖かいね 人の温もりって アンナもあったかい。一緒にこのまま眠ろう?」 状況を読み込むはずの頭は恥ずかしさからニックの言葉を拾うことがやっとで降り切れてショート してしまった。ただひたすらに頬が熱い ロディ「ニック、今 二度寝ってフレーズが聞こえたけどしっかり起きていなよ」 ニック「えー。こんなに暖かいんだから少しくらい好きにさせてよ。迷惑かけてないし」 ロディ「はいはい、まぁこれだけ話せるなら深く眠ることはなさそうだね 言うのはこれくらいにしとく それとほどほどにしてやりなよ。あれ」 じとーと呆れた顔のロディがいた 明らかに私にそれは向けられていて複雑な気持ち がある 視線が痛い ニック「なんにもしてないじゃないか ほんとに心外だなぁ アンナもそう思うよね?ただ二人で暖まってる だけなんだから」 とは言われても絶対、皆からなにか思われていそう。どうしたら、言うに言えないし 言って良いんだろうか アンナ「そうなんですけど、あの…やっぱり 恥ずかしいです ちょっとだけでいいんです。離れませんか?」 おずおず言えばニコニコしたニックと目が合って 目を合わせられずに下に目がいく ニック「ええ!!アンナまで?大丈夫ですとか 言ってくれると思ってたのに やっぱり近すぎるかなぁ」 大袈裟にしょんぼりしている様子を見せる彼は きっと反省はしてないのだろう 皆から見られてしまうのは恥ずかしいことだけど 自分がニックの事を好きだと話せるチャンスだと 考えれば自然と胸が高鳴った そう、私は恋をしている。その想いが消えてしまわぬ内に伝えてもバチは当たらないだろうか …やっぱりそのままにしておこう 秘めたままでいい。側にいられるなら クリス「はぁ、朝からなにやってんだニック アンナを困らせるのも大概にしてやったらどうだ?」 ニック「んー?二度寝の準備、皆がさせてくれないからこうなってるんだけど… アンナはあげないから」 拗ねた物言い、それにほんの少しだけ強められた腕の力に少しだけ嬉しく思う 私を大切にしてくれているのがわかるから ニックの事が愛おしい。できるならずっと… クリス「もともと取るつもりなんてねぇよ はぁ…真面目にやれ、真面目に」 ニック「いーやーでーす。それに何するかも 分からないんだからいいだろう?」 和やかな雰囲気。恐ろしいこともない この空間で良かったと思う これが永久に続くなら尚更 ソフィア「ふっふっふ。お二人さんお熱いねぇ アンナちゃんも幸せかな? ねぇ、もし良かったら僕とプリンでも食べない?」 アンナ「ちょ、ソフィア!?そんなに大きな声で言わないでください。心臓が跳ねそうでした」 全く気づいていなくてびっくりしてしまう 彼女は優しいけどイタズラ好きみたい 皆揃って意地悪だなんて ソフィア「ごめんって。驚かせるつもりはなかったんだよ?アンナちゃんが可愛いから ついつい遊びに来ちゃった」 アンナ「意地悪です。意地悪! 嫌いじゃないですけど、いつもからかってませんか?ソフィアは」 きっと私の顔は真っ赤になっているのが容易に想像できる。いつも遊ばれてばっかりなんだから ソフィア「違うよアンナちゃん 可愛いから僕も混ぜてほしいなぁって ニックとだけじゃなくて僕とは遊んでくれないの?」 遊んでほしい、その言葉は少しだけ引っ掛かる いつもソフィアの側には誰かがいて一人ではないはずなのに もしかして私になにか思っているとか? こんなに綺麗な人なのにそんなことがあるのかな 考えすぎなのかもしれないけれど アンナ「ソフィアが寂しがっているから ソフィアと行ってきていい?ニック」 ニック「んー。できればここにいてほしいな? ならさ、ソフィアがここにいれば? …アンナは、渡さないから」 前よりも低めの声音にちょっと身がすくむ えっと、もしかして私…嫉妬されてる? なにか間違えてしまったかも でもいいか、そういうこともきっと思い出になる 私の大切なものに ソフィア「うえ……ニック酷いなぁ もしかして根に持ってる?結構優しいと思って たけど、そういう一面もあるんだね」 ニック「別に根に持ってるわけじゃないよ なにも思ってない。そういうのは分かってた でも、アンナは渡せないかなって 温かいから」 そう小さく呟けば私をもっと近くに引き寄せる彼 それに答えるようにそっと肩に身を寄せれば 微笑む 私は紛れもなく幸せだった 命をとしてでも守りたい相手が私を求めてくれることが きっとソフィアは分かってくれるとは思っていたけど、なんだか申し訳なかった 身を引いてもらったこと 後でお礼をしなければいけない ソフィア「あははー そこまで言われちゃったら 仕方ない。ニックはケチだったなんて 退散退散。じゃあねアンナちゃん」 アンナ「うん、ごめんなさい。ありがとう ソフィア。またね」 ソフィア「お二人とも楽しんでくださーい またね」 少しだけ優しい笑みが見えたと思えばソフィアは 皆がいる輪の中へと戻っていった ニック「アンナって人気者だね ちっとも気が抜けないや」 その言葉に少しだけ耳を疑った ニックの周りには沢山の人がいて私なんて相手にもされないくらいの関係なのかもしれないなんて こんなにも不安でしかたがないのに 私を選んでくれるとニックは言う なんて嬉しいんだろう アンナ「そう、見えますか?これだけ近くにいても不安ですか?大丈夫、大丈夫ですよ 私はずっと、できる限り貴方と共にいます 側から離れませんから」 ああ、言ってしまった。秘めていようと心に決めていたのに なにか言われるだろうかだなんて思ったけれど そこから無言の時間ができて少しだけ安心した 否定されなかった。私の想いは彼に届いたのだと 感じられたから
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