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彼は(キャーッ、彼だって!)大抵、平日の夕方にいた。週に1回、会う(ギャーッ、会うだって!)か会わないかだから、やはり学業が忙しいのかもしれない。
にもかかわらず、私が店に入っていくと、にこっと微笑んでくれるし、タバコを買おうと棚を覗くと、すかさず私の欲しい銘柄を取ってくれる。
嗚呼。この気持ちは、一体なんとゐうのでせうね。まるで、遠ゐ遠ゐ昔にかえってしまったやうです。
そう、私にだって輝ける青春の日々はあった。ま、自分に自信がなくて、暗い暗い青春時代を送ったのだけれど、それでも通学途中にすれ違うイケメンとか、学年が1つ上のイケメンとか、同じクラスのイケメンとか、憧れる存在はいつもいた。
学校を出て就職して、就職先にボーッといた人と奇跡的に結婚し、子どもにも恵まれた。
今の生活に不満がある訳ではない。でも止められない、この胸のトキメキ! どきどきが止まらないよ!
「それ、動悸じゃない?」
中2の娘が冷たくそう言い放った。思わず片方の口角がひくついた。
「息切れしない?」
しねえよ!……階段のぼった時くらいしか。
「あんたも、こういうことのひとつやふたつ、あるんじゃない?」
「ない」
やや被せ気味に否定しやがった。ガールズトーク終了。
「ていうかさ、不倫とかやめてよね、めんどくさいから」
「なに言ってんの、しないよそんなこと」
「だよね、不倫てガラじゃないよね」
ムキーッ。
……人って怒ると、本当に「ムキーッ」てなるんだな。さすがに「ぎゃふん」は言わないだろうけど。
はい、ガールズトーク終了。
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